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       桃花流水によせて 熊谷喜美子

 紀元賜四〜世紀、官職を捨てみずから農耕にたずさわつた中国の詩人哲学者、陶淵明の著書「挑花源記」より引用。

 大河の支流に道を見失つた一人の漁夫が、今を盛りと咲き香る美しい挑の林に迷いこみ、好奇心にかられて、なおも奥地の水源へと船を進ませると、そこには、光り輝くユートピアがあった。

 広々とした土地、艮田、美池桑竹畑、楽しそうに働く男女の歌声、それはそれより五百年前、秦の始皇帝の虐政を逃れた子孫が、美しい谷間に、済みつき、世間との交渉を断ち、完全な調和と、へいわの社会をなして安穏に暮らしていた姿だった。やがて、男は故郷に帰るが、のちに二度とこの地を探しあてることができなかった。

 平和の地で、万物を深くやさしく愛し続ける女達の一人が、しゅうかくの甘き桃を持ちて、水辺に立つ姿を、男は生涯胸にいだき続けた。
                            
 千鳥が淵公園内
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