癌ニュース3 ホルス
1 考えたい「患者中心」の意味 2 がん患者の思い 普及遅れる緩和医療 3 食物繊維摂取量、少ない女性は大腸がんの「危険」
4 がん広げる「案内人」は免疫細胞 5 前立腺がん 待機療法  6 重い肺障害、他の抗がん剤に比べイレッサで発症率3倍
7 体内炎症は大腸がんの黄信号 8 通算29個目 総力で治療 9 切除法判断に技術差
10 ヨーグルト、大腸ポリープ抑制効果 11ブドウのたねが癌(がん)を防ぐ 12 乳がん診療ガイドラインの解説
13 世界標準の抗がん剤を個人輸入 14  がん医療改革、関係者に意識調査 15 切除法判断に技術差
16 放射線治療 厄介な副作用 17 負担小さい“ミニ移植”
17 負担小さい“ミニ移植” (2006年7月20日 読売新聞)

宇都宮與さんの診察を受ける吉崎正一さん(奥)と妻ルミ子さん(鹿児島市の今村病院分院で)  鹿児島県の農業、吉崎正一さん(67)は2001年3月初め、風呂上がりに、足の付け根のリンパ節がポコリと膨れているのに気づいた。

 1週間後、自宅近くの病院で、リンパ節の組織を調べると、がん細胞が見つかり、「成人T細胞白血病(ATL)」と診断された。

 母乳などを介してヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV―1)が感染し、40〜60年以上の潜伏期間を経て発病する。発病率は約5%。告知を受けた吉崎さんは身が凍り付いた。同じ病気で約30年前に親類の女性が亡くなっていたからだ。

 地元の病院から、この病気の治療経験が豊富な今村病院分院(鹿児島市)に転院。院長で主治医の宇都宮與(あたえ)さん(血液内科)からは移植を勧められた。

 がん細胞を殺すために、抗がん剤などの強い治療を行うと、血液を造る骨髄の機能も破壊されてしまう。そのため、白血球の型(HLA)が合う健康な人から、正常な血液に育つ造血幹細胞を提供してもらって移植する。

 通常の移植は、患者の体への負担が強いため、原則的には体力のある55歳以下を対象に行われてきた。しかし最近、高齢など体力がやや弱っていても可能な、体への負担が小さい「ミニ移植」という方法が少しずつ広がっている。

 やや弱めの抗がん剤治療を行い、骨髄の機能を残した状態で、健康な造血幹細胞を移植する。この抗がん剤治療では、がん細胞は残ってしまうが、健康な細胞が移植されることで、免疫の働きでがんを退治するという手法だ。70歳ごろまでが対象になる。

 「もう一度、自分の田んぼに立って、米を収穫したい」という希望を胸に、吉崎さんはミニ移植を受けた。9月上旬、HLAが一致した弟(62)の腕から採取した造血幹細胞を、点滴で移植した。

 移植された細胞が患者の組織・臓器を攻撃する移植片対宿主病(GVHD)で、背中や腹などの皮膚が赤く腫れ上がり、痛みで眠れない日もあったが、免疫抑制剤で乗り越えた。

 自分の田んぼで作った米・ヒノヒカリを妻ルミ子さん(69)に炊いて持ってきてもらい食べた。

 「甘くおいしかった。生きていて良かった」

 それから間もなく5年。再発もなく、朝5時半から夕方まで農作業で汗を流す。

 宇都宮さんは「骨髄移植は、病状が悪化する前に実施したり、免疫作用を利用したりするなどの工夫で治療成績が良くなってきた。患者さんは希望を失わないで」と話している。

 成人T細胞白血病の治療 造血幹細胞移植の3年生存率は30〜45%。移植ができない場合、3〜8剤の抗がん剤の併用療法を行うが、3年生存率は20%ほどだ。最近、がん細胞だけを目標に攻撃し、細胞増殖を抑えるとされる分子標的薬が開発され、日本で臨床試験が始まった


16 (8)放射線治療 厄介な副作用 読売新聞2006/10/25 

 「手術より身体に優しいので、放射線治療を選ぶ」前立腺がんの患者さんが増えています。

 しかし、当然ながら、放射線治療にも副作用はあります。今回は、身体の外から照射する、一般的な放射線治療の副作用について、一番問題となる直腸出血を中心に説明しましょう。

 放射線の副作用は、治療期間中に生じる急性期の症状と、治療がすべて終了した後、数か月から数年たって生じる、慢性の障害とに分かれます。

 前者は、程度の差はあっても、ほぼ必ず起き、下痢、肛門(こうもん)痛、皮膚炎、頻尿などがよくみられます。うっとうしい症状ですが、いずれも一時的で、治療が終われば自然に治まります。

 これに対して、後者の慢性障害は、発生率はさほど高くありませんが、ひとたび生じると、なかなか治らず、急性症状より、ずっと厄介な副作用です。

 この慢性障害には、膀胱(ぼうこう)と直腸の障害があります。どちらも前立腺に接している臓器なので、放射線がたくさん当たってしまうからです。そして、その中で一番問題になるのが、直腸に傷(潰瘍(かいよう))ができて、出血が続く「直腸出血」です。

 前立腺がんの放射線治療では、「直腸に傷をつけず、いかに前立腺に多く放射線を当てるか」が最重要課題なのです。

 照射技術が未熟な時代には、60グレイほどの照射が一般的でした。この量なら、直腸出血はまず起きません。しかし、前立腺がんを治すパワーが手術に少し劣ります。手術と同等とされるのは76グレイ以上なのですが、直腸出血を起こさずに、そこまで照射するには、かなり高度な技術が必要になります。

 多方向から照射する三次元照射、これにコンピューター計算を最大限に加えた強度変調放射線治療(IMRT)、照射のたびに毎日CTで正確に位置を確認するピンポイント照射、陽子線や重粒子線を使った特殊照射などが検討されています。

 しかし、三次元照射でさえ、76グレイ以上では安全ではありません。おそらく、強度変調、ピンポイント、陽子線、重粒子線などが、上手に使いこなせた場合、直腸出血の危険を5%未満に抑え、76グレイ以上まで照射できる方法だと思います。 ただし、あくまでも「上手に使いこなせた場合」です。

 最新の放射線治療には「データを入力すれば、あとは機械が自動的に治療する」というイメージがあるのかもしれません。しかし、それは大間違い。医師や技師の現場での判断や日々の微調整が大切です。装置が最新でも、使いこなせなければ障害を減らすことはできません。

 目星をつけた医療機関の治療担当者に、実績(経験年数、治療数、障害発生率、治癒率)を率直に尋ね、納得できたら治療を受ける。これが「賢い患者」になる条件だと思います。 (次は11月10日の予定です)

プロフィール   植松 稔 うえまつ・みのる
 1982年滋賀医大卒。UASオンコロジーセンター長(厚地記念放射線研究所、鹿児島市)、ハーバード大・トロント大客員教授、慶応大非常勤講師。肺がん三次元ピンポイント照射を開発。著書に「明るいがん治療」。
15 切除法判断に技術差 (2006年9月22日 読売新聞)

「先生のおかげで助かった」と話す金坂さん(左)と担当医の石田さん(昭和大横浜市北部病院で) 直腸がんの手術を17年前に受けた横浜市の金坂由夫さん(75)は、昨年夏、今度はS状結腸に約1センチのポリープ型のがんが見つかった。

 診断は「粘膜下にがんが及んでいる可能性が高く、内視鏡では取りきれないため手術が必要」。だが、前回の手術で腸管と周囲の血管を広く切除しており、再び手術を行うと、直腸の下部まで血液が十分に行かない恐れがある。そのため、主治医は「直腸を切除して人工肛門(こうもん)を設けるしかない」と告げた。

 「本当に、内視鏡で取れないのだろうか」。金坂さんがかかりつけの内科開業医に相談すると、「診断技術には差がある。セカンドオピニオン(第二の意見)を聞いたほうがいい」と、横浜市都筑(つづき)区の昭和大横浜市北部病院を紹介してくれた。

 担当した同病院消化器センターの外科医、石田文生さんは、治療方針を決めるため、内視鏡検査に立ち会った。

 検査室のベッドに横たわり、モニターに映る自分の腸内を見ていた金坂さんは、不安でいっぱいだった。内視鏡が腸管を進み、がん化した腫瘍(しゅよう)が映し出されると、石田さんの表情が険しくなった。

 まばたきすら惜しむように、石田さんは拡大した腫瘍の映像を見つめる。5分、10分と時が流れた。金坂さんの胸が高鳴る。その時、石田さんがあまりにも意外な言葉を口にした。

 「これ、取れますよ」

 数分後、金坂さんのがんは、粘膜の下に生理食塩水を注入して腫瘍を持ち上げ、根元を焼き切る内視鏡的粘膜切除術(EMR)で取り除かれた。すぐに、切除した腫瘍の病理検査が行われ、石田さんの見立て通り、がんは粘膜内にとどまっていることが確認された。

 がんが、どの程度まで食い込んでいるかは、切らないと正確には分からないことが多い。だが、同病院副院長の工藤進英さんらの研究で、腫瘍表面の微小な凹凸などの状態から、進行度がかなり正確に予想できるようになってきた。

 石田さんも、腫瘍の“顔つき”から悪性度を判断するこの方法で、内視鏡切除に踏み切った。 「医師の技術差を、身をもって知りました」と金坂さんは笑顔で話す。

 がん化する恐れが少ない小さなポリープを切除する病院は今も多いが、正確な診断のもと、がんを内視鏡で積極的に切除している病院は限られる。

 「がんの内視鏡切除件数は、病院の技術力を知る重要な手がかりの一つ」と石田さんは語る。(佐藤光展)

 内視鏡切除件数が多い主な病院 (昨年実績、読売新聞調べ) 
 国立がんセンター中央(東京)266件
 横須賀共済(神奈川)209件
 県立静岡がんセンター(静岡)192件
 昭和大横浜市北部(神奈川)171件
 日立総合(茨城)166件
 広島記念(広島)162件
14  がん医療改革、関係者などに意識調査 TBS2007年01月01日(月) 06時35分

 これは、がんに関する最新情報を提供するNPO法人が首都圏のがん患者やその家族、医師や看護師など医療関係者にアンケート調査したものです。

 それによりますと、「がん対策基本法」で日本のがん医療は変わるかという問いについては、半数の人が「そう思う」と答え、この法律を高く評価しています。

 しかし、この法律が4月に施行されることを「全く知らなかった」人は、患者やその家族では5.8%と少なかったのに対し、医療関係者では20.4%と、5人に1人が知らないということがわかりました。

 「ある程度予想はしていたが、あまりの認識の低さに憤りを感じている。『がん対策基本法』を広める活動を通して、医療現場を改善するべく頑張りたい」(キャンサーネットジャパン理事 岩瀬 哲 医師)

 この法律の背景には、日本のがん対策に不満を抱き、結束してがん医療を変えようという患者たちの思いがありましたが、依然として、医療関係者の意識が低い現状が浮き彫りになりました。(01日02:45)


13 世界標準の抗がん剤を個人輸入する方法と値段  日刊ゲンダイ 2006年9月25日

「治療法はもうありません」――。医師にそう宣告されたがん患者が最後にすがるのが未承認抗がん剤の個人輸入だ。
「余命3カ月と診断された60歳の末期の肺がん患者が、ある未承認抗がん剤を使ったところ、2カ月でがん細胞が縮小し、4年経った今でも元気に働いています」
 こう言うのは首都圏のある開業医だ。主に代替医療を利用したがん治療を行っているこの病院では、患者向けにがんに関する海外の最新治療や世界標準の抗がん剤情報を紹介している。それをもとに会員が個人の責任で未承認抗がん剤を輸入、延命に成功したケースがいくつかあるという。
 未承認抗がん剤の個人輸入というとなにやら怪しげだが、法律に触れることはないのか?
「麻薬や向精神薬はダメですが、海外医薬品は患者本人が使用するのを目的に、1カ月分なら医師の処方箋なしで輸入できます。2カ月分以上でも医師の処方箋と、販売や譲渡しないことを証明する薬監証明を地方厚生局(全国に3カ所)で取っていただければ結構です」(厚生労働省医薬食品局監視指導麻薬対策課)
 実際に個人輸入するには、海外の製薬会社に直接交渉したり、主治医に頼んで治療用として輸入してもらうなどいくつかの方法がある。しかし、最近では個人輸入代行サービス会社へ依頼するのが一般的だ。医療ジャーナリストの松沢実氏が言う。
「どの代行会社がどんな抗がん剤を扱っているかは、ネットで検索すればわかります。もちろん、患者やその家族が個人輸入できますが、代行会社のなかには医師の依頼しか受け付けないところも少なくありません。ただし、その場合でも了解の得られる医師を紹介してくれる代行会社もあるので、自分の主治医が未承認薬の個人輸入に反対でも薬を手に入れることはできます」
 依頼する代行会社が決まったら、電話やファクスなどで正式な注文をする。注文書などの書類に書き込み、代金を振り込むと、1〜2週間後に国際郵便などで医師もしくは自宅に届く。
 意外に簡単に未承認抗がん剤は手に入るが、難しいのはここからだ。がん治療に詳しい「銀座東京クリニック」(東京・中央区)の福田一典院長が言う。
「多くの抗がん剤は副作用がつきものですが、内服薬の場合、インターネットなどの情報を頼りに自分の判断で未承認医薬品を使用している患者さんも見受けられます。通常医療から見放された“がん難民”という問題もありますが、これは非常に危険です。未承認抗がん剤に精通した医師に、治療を依頼することが不可欠です」
 費用も気になる。個人輸入の未承認抗がん剤の治療を受けると、治療以外の検査費用、入院費用も全額自己負担になりかねない。日本の保険制度では保険適用外の薬を使った治療では、混合診療が原則認められていないからだ。
「すべて自由診療だと月100万円以上かかる場合もあります。それを避けるには個人輸入の未承認抗がん剤による治療を、入院中や受診中の病院とは異なるところで受ければいい。もちろん、両者の医師同士の密接なつながりは不可欠ですが、異なる病院で未承認抗がん剤の治療を受ければ、その分だけ自己負担すればいいからです」(福田院長=前出)
 主治医から見捨てられても、知恵さえあれば、がんと闘う手段はあるのだ。


12 乳がん診療ガイドラインの解説
 乳がんについて知りたい人のために (2006年版) (日本乳癌学会編)
 http://blog2.doremi3.com/archives/2006/10/post_28.html
11ブドウのたねが癌(がん)を防 (HealthDay News 2006 10月18日)

   ブドウ種子抽出物に大腸腫瘍の成長を妨げる作用があることが、培養細胞およびマウスを用いた研究で示された。米コロラド大学健康科学センター(デンバー)薬学部門教授Rajech Agarwal氏らのチームによると、マウスにこの抽出物を投与したところ、進行性大腸腫瘍に44%の縮小がみられたという。

 研究チームはさらに、ブドウ種子抽出物が癌(がん)の成長を妨げる機序も突き止めた。細胞周期を「凍結」させ、癌細胞の自己破壊を引き起こす腫瘍内の蛋白(たんぱく)「Cip1/p21」の作用が、ブドウ種子抽出物によって高められるのだという。この知見は、医学誌「Clinical Cancer Research」10月15日号に掲載された。

 Agarwal氏らは過去の研究で、別のタイプの腫瘍でもブドウ種子抽出物に抗癌作用がみられることを示している。ブドウの皮や種には、プロアントシアニジンという抗酸化フラボノイドが豊富に含まれている。

 ただし、今回の結果について「今すぐブドウ種子エキスを買いに走るよう勧めているわけではない」とAgarwal氏は述べている。用量や副作用については不明な部分が多く、むやみに利用するのは危険だという。ブドウ種子抽出物が癌を縮小させることと、その機序を明らかにした点でこの前臨床試験は価値のあるものだが、ヒトの癌の治療法および予防法として試験を実施するまでには、さらに多くの研究が必要とのこと。
10 母乳やヨーグルト、大腸ポリープ抑制効果  (2006年9月26日 読売新聞)

たんぱく質「ラクトフェリン」
 母乳やヨーグルトなどに含まれるたんぱく質「ラクトフェリン」に、大きくなるとがん化する可能性がある大腸ポリープ(腺腫(せんしゅ))を縮小させる効果があることが、国立がんセンターがん予防・検診研究センターの神津隆弘室長らの調査で分かった。28日から横浜市で始まる日本癌(がん)学会で発表する。

 ラクトフェリンは、人間の母乳、特に初乳に多く含まれる。牛乳などにも含まれるが、量が少なく熱に弱い欠点がある。

 今回の研究では、牛乳から分離、精製したラクトフェリンの錠剤を使用。同センター中央病院で、すぐには内視鏡切除の必要がない直径5ミリ以下の腺腫が見つかった104人に協力を求め、1日3グラム、あるいは1・5グラムを摂取する群と、ラクトフェリンを含まない偽薬を摂取する群の計3群に分けて、1年後に腺腫の変化を比較した。

 その結果、偽薬の群では直径が平均6%増大したのに対し、1・5グラム摂取群では2・1%の増大にとどまり、3グラム摂取群では4・9%の縮小が認められた。

 また、3グラム摂取群では、血中のラクトフェリン濃度が高く保たれ、免疫細胞の一種であるNK細胞が活性化することも分かった。

 神津室長は「腺腫を縮小させる食品成分が見つかったのは初めて。ラクトフェリンの摂取で、腺腫の増大が抑制できるのであれば、大腸がんの予防効果も期待できる」と話す。


9 切除法判断に技術差

「先生のおかげで助かった」と話す金坂さん(左)と担当医の石田さん(昭和大横浜市北部病院で) 直腸がんの手術を17年前に受けた横浜市の金坂由夫さん(75)は、昨年夏、今度はS状結腸に約1センチのポリープ型のがんが見つかった。

 診断は「粘膜下にがんが及んでいる可能性が高く、内視鏡では取りきれないため手術が必要」。だが、前回の手術で腸管と周囲の血管を広く切除しており、再び手術を行うと、直腸の下部まで血液が十分に行かない恐れがある。そのため、主治医は「直腸を切除して人工肛門(こうもん)を設けるしかない」と告げた。

 「本当に、内視鏡で取れないのだろうか」。金坂さんがかかりつけの内科開業医に相談すると、「診断技術には差がある。セカンドオピニオン(第二の意見)を聞いたほうがいい」と、横浜市都筑(つづき)区の昭和大横浜市北部病院を紹介してくれた。

 担当した同病院消化器センターの外科医、石田文生さんは、治療方針を決めるため、内視鏡検査に立ち会った。

 検査室のベッドに横たわり、モニターに映る自分の腸内を見ていた金坂さんは、不安でいっぱいだった。内視鏡が腸管を進み、がん化した腫瘍(しゅよう)が映し出されると、石田さんの表情が険しくなった。

 まばたきすら惜しむように、石田さんは拡大した腫瘍の映像を見つめる。5分、10分と時が流れた。金坂さんの胸が高鳴る。その時、石田さんがあまりにも意外な言葉を口にした。

 「これ、取れますよ」

 数分後、金坂さんのがんは、粘膜の下に生理食塩水を注入して腫瘍を持ち上げ、根元を焼き切る内視鏡的粘膜切除術(EMR)で取り除かれた。すぐに、切除した腫瘍の病理検査が行われ、石田さんの見立て通り、がんは粘膜内にとどまっていることが確認された。

 がんが、どの程度まで食い込んでいるかは、切らないと正確には分からないことが多い。だが、同病院副院長の工藤進英さんらの研究で、腫瘍表面の微小な凹凸などの状態から、進行度がかなり正確に予想できるようになってきた。

 石田さんも、腫瘍の“顔つき”から悪性度を判断するこの方法で、内視鏡切除に踏み切った。

 「医師の技術差を、身をもって知りました」と金坂さんは笑顔で話す。

 がん化する恐れが少ない小さなポリープを切除する病院は今も多いが、正確な診断のもと、がんを内視鏡で積極的に切除している病院は限られる。

 「がんの内視鏡切除件数は、病院の技術力を知る重要な手がかりの一つ」と石田さんは語る。(佐藤光展)

 (次は「山里の大往生」です)

 内視鏡切除件数が多い主な病院

 (昨年実績、読売新聞調べ) 

 国立がんセンター中央(東京)266件

 横須賀共済(神奈川)209件

 県立静岡がんセンター(静岡)192件

 昭和大横浜市北部(神奈川)171件

 日立総合(茨城)166件

 広島記念(広島)162件

(2006年9月22日 読売新聞)

8 通算29個目 総力で治療


これまでの治療の数々について、自分でつけた詳細なメモを手にする永島妙子さん 神奈川県鎌倉市の永島妙子さん(74)は今年2月、CT(コンピューター断層撮影)検査で、肝臓に約1センチのがんが見つかった。

 東京・港区の虎の門病院で、がんに栄養を送る血管をふさいで“兵糧攻め”にする「肝動脈塞栓(そくせん)治療」を受け、がんは消えた。

 永島さんの肝臓にできたがんは、実はこれで通算29個目。治療を受けるのは20回目だった。

 最初にがんが見つかったのは1994年。以来、3か月ごとの定期検査で新たながんが見つかるたびに、治療で退治してきた。「出れば、たたく。肝臓がんの治療は、まるでモグラたたきのようです」と永島さんは話す。

 肝臓がんの多くは、C型やB型肝炎が原因で、肝硬変へ進み、20〜30年を経てがんを発症する。永島さんも、40歳代のころに受けた手術の際の輸血で、C型肝炎ウイルスに感染し、肝硬変へと進んでいた。

 同病院肝臓科部長の池田健次さんは「がんを治療しても、別の部位にまた出るのは、肝臓全体に“がんの種”のようなものが広がっているためと考えられています」と説明する。

 手術でがんを取りきっても、5年以内に8割の患者が再発する。永島さんのように、何度も繰り返すこともまれではない。

 肝臓は、栄養分の貯蔵や、薬物、アルコールの無毒化などを行う。生体に欠かせない臓器で、全体を摘出することはできない。

 そのため肝臓がんの治療は、肝臓を部分的に切除する手術のほか、おなかの外から針を刺してがんにアルコールを注入して死滅させたり、電気の熱で焼いたりする“針刺し”治療、肝動脈塞栓治療など、様々な手法が工夫されている。

 受け持つ診療科も、針刺し治療は内科、手術は外科、塞栓治療は放射線科と幅広い。「いかに最適な治療を行うか、肝臓がん治療は医療機関の総合力が問われる」と池田さんは話す。

 永島さんは、針を刺してアルコールや熱でがんを殺す治療を十数回受けた。がんが4、5センチと「大福もちほど大きかった」6年前には2度、肝臓の一部を手術で切除した。針刺し治療も手術も難しい場所にできたがんは、塞栓治療を重ねて消すことができた。

 ただ、がんの数が多い場合や大きすぎる場合、治療は難しくなる。永島さんは幸い、一度に見つかるがんの数が1〜2個と少なく、直径1〜2センチ程度と小さいことがほとんどだった。

 あの手この手の治療のおかげで、今はがんの影はない永島さん。「再発したからといって、あきらめないことが肝心」と話す。

 肝臓がんの医療機関別治療数 日本消化器病学会、日本消化器外科学会が認定した954施設に、2005年の治療実績を本紙がアンケートした。518施設から回答を得て、治療数の多かった施設の一覧を7月2日朝刊くらし健康面「病院の実力」(http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/jitsuryoku/)に掲載。

(2006年7月26日 読売新聞)
7 体内炎症は大腸がんの黄信号、予防対策への活用に期待

 体内の炎症の程度を示す「CRP」というたんぱく質の値が高いほど、大腸がんになりやすいことが、厚生労働省研究班の大規模調査でわかった。

 CRPは通常の血液検査に含まれる項目。大腸がんの予防対策への活用が期待できそうだ。

 研究班(研究責任者=津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)は、男性約1万5300人、女性約2万6700人を11年半にわたり追跡調査。うち375人が大腸がんになった。

 がんにならなかった人も含め、約1100人について、調査前に提供を受けていた血液のCRP値を通常より100倍以上感度のよい方法で分析、4グループに分けた。その結果、大腸がんになる危険度は、CRP値の最高グループ(血液1リットル当たり0・96ミリ・グラム以上)が最低グループ(同0・24ミリ・グラム未満)より1・6倍高かった。

 研究担当の笹月静・国立がんセンター予防研究部研究員は「大腸がんの危険が高い人をえり分け、予防対策に生かすのに参考になる基礎的成果だ」と話している。

(2006年4月19日14時40分 読売新聞)

6 重い肺障害、他の抗がん剤に比べイレッサで発症率3倍

 肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の副作用とみられる重い肺障害の発症率は、他の抗がん剤を使った患者に比べ約3倍に高まることが、イレッサを販売するアストラゼネカ社(本社・大阪市)が国内で実施した大規模な調査でわかった。

 今回の調査は2003年11月から06年2月まで行われ、全国の肺がん患者4473人を登録。イレッサの代表的な副作用とされる、急性肺障害と間質性肺炎の発症率などを調べた。イレッサを使用し3か月以内に発症したのは4%で、他の抗がん剤を使用した場合は2・1%だった。

 喫煙歴があるなど重い肺障害を発症しやすい人はイレッサの治療から外されることが多いため、こうした対象患者の違いを考慮に入れると、イレッサは他の抗がん剤に比べ、発症の危険性が3・2倍に高まることが判明した。イレッサは、投薬から1か月以内の発症率が高いこともわかった。

 イレッサの副作用によるとみられる死亡は2%だったが、主に重い肺障害が原因で、他の抗がん剤でみられる造血系の副作用による死亡は、1例もなかった。専門家は「喫煙歴以外の患者の特性も見極め、適切な抗がん剤を選択することが望ましい」と分析している

(2006年9月28日 読売新聞)

5 前立腺がん 待機療法 血液検査で進行見極め
 香川県の男性(75)は検診で前立腺がんが見つかった。香川大泌尿器科の説明では、がんが小さく、細胞の悪性度が低いので、治療はなにもせず、定期検査で経過を見る待機療法でも良いと言われた。予想外の対処法だったが、手術には後遺症もあるので、様子を見ることにして3年が過ぎた。
 前立腺がんの検診では、採血によるPSA(前立腺特異抗原)検査が行われる。正常値は「4」以下だが、肥大や炎症でも上がる。外側から前立腺に刺した針で細胞を取り、顕微鏡で調べる生検を行う。
眼瞼下垂の手術
 この検査の普及で、早期の前立腺がんが見つかる人が増え、新たな問題が生まれた。
 前立腺がんは、進行が遅く、命を脅かす場合でも発見から平均10年かかる。また、ほかの原因で亡くなった人を解剖すると、70歳以上の20―30%に前立腺がんが見つかる。がんと言っても、おでき同様に、危険のないものが一定数あるのだ。
 ところが治療となると、手術では、男性機能の低下が半数に見られ、5―10%の人には尿漏れが残る。放射線治療でも排尿や排便の障害が起こる場合がある。注射や飲み薬によるホルモン療法はがんを殺すのではなく抑えるものだが、やはり男性機能は失われたり、顔がほてったりする。治療をしなくても安全ながんを見分けられればありがたい。
 香川大泌尿器科教授の筧(かけひ)善行さん(50)は「病巣が小さく、増殖速度が遅いものはある程度、見分けることができます。しかし100%完全ではないので、慎重な経過観察が必要になります」と説明する。
 待機療法(無治療経過観察)では、2、3か月に1度、PSAをはかり、それを基に半年ごとに、増殖のスピードを判断する。筧さんたちは、待機療法が可能な基準を設定している。
 〈1〉がんの進展度 PSAは10以下が望ましい。前立腺内にとどまるがんで、直腸から指を入れてもがんに触れない「T1c」という段階。患者の6割はこのタイプ。
 〈2〉大きさ 生検では通常、針を6―12か所に刺す。このうちがんが出たのが2本以下が対象になる。それを超えると、大きいと判断される。さらにがんが出た組織を顕微鏡で見て、がんが占める占拠率が50%以下なのも条件。
 〈3〉悪性度 がん細胞の悪性度を示す10段階の「グリーソンスコア」があり、顕微鏡による観察で診断する。数字が高いほど悪性度が高い。6以下が対象。
 前立腺がんと言われた時に、医師にこの3つの条件を質問すれば、待機療法が選択可能かどうかわかる。
 経過観察中に、増殖が早く、2年以内にPSAが元の数値の2倍になりそうなことが予想される時は、手術や放射線などの治療を勧める。研究を目的に登録した50人では、3年で35%が、経過観察を中止し治療を受けた。
 筧さんは「待機療法には、治療をしないですむか、先延ばしにできる利点があります。しかし、一部の患者さんでは、治療の開始が遅れる場合があることも留意して下さい」と話している。(渡辺 勝敏)
厚労省の待機療法共同研究参加病院(いずれも泌尿器科)
北海道大、札幌厚生、秋田大、千葉大、群馬県立がんセンター、国立がんセンター中央、北里大、県立静岡がんセンター、京都大、大阪府立成人病センター、倉敷中央、国立四国がんセンター、香川大

(2004年6月14日 読売新聞)

4 がん広げる「案内人」は免疫細胞 京大グループ発見
朝日新聞2007年03月19日06時55分

 がん細胞がまわりにじわじわと広がっていく「浸潤」現象を起こすカギとなるのは、「未分化骨髄球」という免疫系の細胞であることを、京都大大学院の武藤(たけとう)誠教授(遺伝薬理学)と湊長博教授(免疫学)らのグループが見つけ、18日付の米科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」電子版に発表する。がんを攻撃する「味方」と思われていた免疫系の細胞が、がんと協力する「敵」だったことになり、がん治療の考え方を変えかねない発見といえそうだ。

 武藤教授らは遺伝子操作で大腸がんを起こすネズミを開発し、観察する中で、がん細胞を包むようにくっついている細胞群に気が付いた。

 調べると、骨髄にだけあるとされていた「未分化骨髄球」という未熟な免疫系細胞だった。この細胞群はたんぱく質分解酵素を作り、がん細胞の固まりを包んでいる膜を溶かし、がん細胞が外へ広がっていきやすくしていることがわかった。

 さらに大腸がんの細胞表面に免疫系細胞を呼び寄せる働きを持つたんぱく質があることを発見。これを認識してくっつくCCR1というたんぱく質を未分化骨髄球が持っていることもわかった。

 大腸がんを起こすネズミに、このCCR1ができなくなるようにさらに遺伝子操作すると、がん細胞のまわりに未分化骨髄球は集まらず、浸潤の程度も低くなった。

 湊教授は「免疫系細胞ががんの周辺に集まることは知られていたが、それはがんを攻撃するためと考えられていた。しかし、実は、がん細胞に呼び寄せられ、がん細胞がまわりに広がっていく浸潤現象の『水先案内人』のような役割をしていた」と話す。

3 食物繊維摂取量、少ない女性は大腸がんの「危険」 朝日新聞2006年07月20日

食物繊維摂取量、極少ない女性には発がんリスク
 米や野菜、納豆などに含まれる食物繊維を食べる量が極端に少ない女性は、大腸がんになりやすい――。厚生労働省研究班(班長=津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)の大規模な疫学調査でこんな結果が分かった。たくさん取っても大腸がんの予防にはつながらないという研究結果が近年相次ぎ、今回も男性では関連が確認されなかったが、「全く無意味」ではなさそうだ。

 岩手や高知、沖縄など10府県の約8万人を6年間追跡調査し、年齢や喫煙などの影響を除いて分析した。138種類の食品について食べる頻度と量を答えてもらい、各人の食物繊維の摂取量を推計した。

 大腸がんになった女性187人を、摂取量で7グループに分けて分析したところ、「最少」(1日平均約6グラム)の人たちが大腸がんになる危険性は、「最多」(同約20グラム)の人たちに比べ2.3倍だった。ほかのグループ間に明確な差は見られず、大部分の人は予防に必要な量は取れているらしいことが分かった。

 同研究班のこれまでの調査では、野菜と果物を食べた量と大腸がんにかかる率に明確な関連はないという結論が出ており、欧米でも食物繊維による大腸がんの予防効果は認められないとする研究が多くを占めている。

 国立がんセンター予防研究部の笹月静・室長は「大腸がん予防の観点からはほどほどに取れば十分だといえるが、(血糖値の変動幅を減らして)糖尿病などの予防に良いという考え方が変わるわけではない」と言っている。
2 がん患者の思い 普及遅れる緩和医療

袖岡さん(奥)を往診する桜井医師(左)。治療方針を話し合いながら決めている。手前は妻の紀子さん(兵庫県尼崎市で) がんで亡くなる人は年間30万人超に上るが、最期まで在宅で療養できる人は少ない。がん末期の在宅ケアを進めるには、診療所の医師に対する疼痛(とうつう)緩和などの教育支援や、地域の病院や介護事業者との連携体制整備が欠かせない。(本田麻由美)

最期までカッコよく
 「痛みは薬が効いてて問題ないんやけど、今度は下痢がつらいわ……」

 11月17日、大腸がんのため、兵庫県尼崎市の自宅で療養中の袖岡勲さん(61)は、リビングルームのベッドに腰掛け、往診に訪れた「さくらいクリニック」の桜井隆医師に症状を訴えた。

 袖岡さんは、6年前にがんが見つかり2度の手術を行った。腹膜に再発して抗がん剤治療を受けていたが、病状が進行して腸閉塞(へいそく)を起こし、10月に緊急入院した。「病院にいても点滴と服薬だけ。もう治らへんのなら妻や子供がいる家に帰りたい」と袖岡さんは希望したが、病院の主治医は「腸閉塞が再発する恐れもあり、在宅で大丈夫か」と及び腰だった。そんな時、妻の紀子さん(64)が偶然、がん患者の在宅生活を支える桜井医師をテレビで知り、病院に引き継ぎを依頼して、10月末に退院した。

 「がんの症状に家でもきちんと対応してくれる先生に巡り合えなければ、とても不安で連れて帰れませんでした」。紀子さんの目には、入院中と比べ、夫の表情が見違えたように映る。

 袖岡さんも、がん治療をあきらめたわけではないが、「病院より家の方が快適や。だけど、痛みでつらいだけでは意味がない。不快な症状は何とかしてもらって……最後までカッコよく生きたいんや」と話す。

課題は教育支援
 がん末期患者が自宅で生を全うするのは、現状では難しい。がん患者の在宅死の割合は、日本人平均の半分以下の6%にとどまる。

 背景には、がん末期患者の在宅療養を支える技術や知識の普及の遅れがある。宮城県で先進的な在宅ケアに取り組む岡部健医師は「緩和医療の教科書ができたのは約10年前。多くの医師が知らないのは当然」と話す。

 がん患者の訴えに応じることのできる開業医らを増やそうと、教育支援の試みも始まった。宮城県は11月、県医師会との共催で「在宅医療研修会」を始めた。希望する開業医約70人に緩和医療の役割や麻薬の処方技術などを講習するほか、訪問看護・介護事業者や病院看護師らの研修も行い、在宅チームケアの体制整備を目指す。国も、地域の特性に応じた在宅医療整備マニュアルづくりや、教育システム構築のための研究チームをスタートさせる方針だ。

病院との連携
 問題は診療所ばかりではない。患者が退院する病院との連携も重要だ。だが、病院側には在宅ケアを担う地域の医療機関情報がほとんどない。袖岡さんが入院していた病院も、在宅療養支援診療所がどこにあるのかを把握していなかった。

 厚生労働省は、医療機関の個別の情報を網羅した「医療機能情報の公表制度」の創設を決めたが、本格稼働は2008年度から。桜井医師は「在宅療養支援診療所などの情報公開を早急に進めるべきだ。また、病院側も、適切な支援があれば最期まで在宅療養ができることを理解する必要がある」と話している。

医療機能情報の公表制度
 専門医の数や対応可能な在宅医療など、病院や診療所の情報を都道府県がまとめて公表する制度。新しい医療計画では、がんや脳卒中などの分野ごとに、急性期から在宅まで、具体的に医療機関の連携体制を構築することになっているが、情報公開により、住民・患者の選択を支援し、医療機関の連携を促進する。
(2006年12月13日 読売新聞)
1 考えたい「患者中心」の意味  本田 麻由美記者

 「患者中心の医療」というと美しく聞こえるが、その本来の意味を、患者も医療者もわかっているんだろうか、という疑問を感じる――。 「がん対策推進基本計画づくりの議論は、患者のために」(4月20日付本欄)に対して、このような趣旨のお便りを幾つかいただいた。

 武蔵野大看護学部教授の種村健二朗さん(66)は、「一人一人の患者の意思を尊重した医療が『患者中心の医療』だと思う」とし、「その実現には患者本人への病状、予後も含めた告知が不可欠なのに、そうした議論がない」と指摘する。

 例えば、「延命を期待して積極的抗がん剤治療を続けたい」のか、「痛み軽減の治療だけでいい」のかを、患者自らが決めるためには、本人が自分の病状を正確に認識できるように、十分な説明が行われていることが必要だ。しかし、病院では現在も、「つらいことを知らせるのはかわいそう」「だから患者に代わって良い治療法を決めてあげる」といった“優しさ”から、家族と医師が判断していることが少なくないという。

 こうした状況に対し、種村さんは、がん専門病院の治療医や緩和ケア病棟の担当医を35年間務めてきた経験から、「本人が事実を知って苦しむことは、その苦しみからの解放への過程の始まり。必要なのは、その過程に沿った真摯(しんし)なケアであり、人間を見くびった“優しさ”ではない」と強調。「患者を蚊帳の外にして家族と医師が話し合う現状のまま、『患者中心主義』が推し進められようとしているのは不気味だ」と言う。

 確かに、がん告知が当たり前になりつつある一方で、再発がん等の場合、病気の進行度合いまでは詳しく知らされないことが多い。「患者中心の医療」を実現するには、患者側にも病状や予後の告知を受けて生き方を選択する覚悟が必要なのかもしれない。ただ、私にその覚悟があるかどうかは分からない。患者の生きる意欲を奪うような告知では意味がないとも思う。「悪い知らせを伝える技術」を、医師が学ぶ仕組みも必要だ。

 いただいたお便りの中には、このほか、「『患者中心』を、『医師が患者の言いなりになること』と勘違いしている人が多い」「『患者参加型医療』は、治療内容を形式的に患者に確認することではない」などの意見があった。乳がん闘病を通じて、私なりに考えた「患者中心」の意味について、次回も続けて考えてみたい。

◇ お便りは〒100・8055読売新聞東京本社社会保障部へ。Eメール(ansin@yomiuri.com)。〈次回予定 5月18日〉(2007年5月4日 読売新聞)
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