癌ニュース ホルス
1 ガンを嗅ぎ分ける“ガン探知犬” 2 抗がん剤治療は「おまけ」か 3 がん代替医療に公的手引書 厚労省
4 がん患者への告知 5 薬物治療専門医は不足 6厚労省、痛み軽視見直し…緩和ケア
7 「放射線治療」「緩和ケア」 8「がんの疑い」実は「骨折」 9がんの死者 過去最高更新
10 患者の闘い終わらせるな 11「医療の限界」しみじみ痛感 12抗がん剤治療にも格差
13増殖の勢い抑え「共存」 14「前立腺」怖がらないで 15乳がん転移を抑える物質発見・大阪バイオ研
16患者視点の情報 米国のHP 17別の医師にも聞き安心  18 第1回 がんPET検診
19抗がん剤治療にも格差 20進行遅いなら静観も 21がん代替医療 自己判断は危険
22 第2回 正しくPETを活用する 23がんの危機意識啓発へ 24回復早い腹腔鏡手術
25治療の選択肢勝ち取る努力も 26生活の「質」選択、手術断念 27第3回 増えている女性のがん
28終末期患者「延命施さず」病院の56% 29安全優先 手術を選択 30腫瘍マーカー「PSA」の錯覚
31第4回PETは全身を一度にスクリーニング 32「ラジオ波」に熟練必要 33「患者と対話」 学会は門戸広げて
34がん休眠療法で、がんと共存 35対策法作り 「骨抜き」は困る 36がんの痛み抑える薬の知識、医師の半数知らず
37笑って病を直して 38 第5回 転移する前に見つけたい 39がん転移、たんぱく質が抑止
40 終末期医療に関する初めての研修会 41サプリメントはがん治療の重要なも 42延命の中止・差し控え…医師苦悩、重い裁量
43[延命治療中止]「医療現場はルールを求めている」 44 『がんの補完代替医療ガイドブック』作成 45 がんを切らずに治す粒子線治療施設
46 がん対策大幅拡充 47 延命措置を考える 48 薬を併用 進行がん消えた
49「がん医療のプロ」育て 50いっしょに考えましょう がん医療 51治療希望したのに…
52 子宮がんをワクチンで治療 53能登の海藻でがん抑制  54身体をいためつける薬
55家族で話し合う機会を 56「手術後に抗がん剤」有効 57乳がん、初の患者向けガイドライン
58治療希望したのに 59「前立腺」怖がらないで 60がんの痛み緩和治療に重点
61「がん対策情報センター」のあり方考える 62「フュージョン医学でがん征服」 63延命 最後の選択(5)届かぬ本人の意思
64ピロリ菌感染歴、胃がんリスク10倍 65「前立腺」治療の要・不要 66前立腺がん 待機療法 血液検査で
67膵がん、血液で早期診断へ 68 多職種チームによる介入が重要 69終末医療初の指針、厚労省が原案
70脊髄炎 医師の関心低く 71癌(がん)の遺伝子治療に成功 72重粒子線がん治療施設を支援
73 意思確認、不透明さ残す…富山の延命中止問題 74「がん」 次への課題 75ガンになったらインターネットで
76がん・小児など国立6センター、“司令塔”に 77がん登録:遅れる日本 78チーム医療の重要性を確認
79がん治療中だが死を願う 80延命の中止・差し控え…医師、重い裁量 81がん医療におけるチーム医療の重要性を確認
82炎症と癌(がん)の関係解明に光 83高血糖が胃がん発症のリスクにも 84「検診怖い」 でも勇気出して
85メタボリックで胃がんリスク高まる 86終末医療初の指針、厚労省が原案 87大腸がん:傷つかない手術
88便のDNA検査で大腸がん発見、確率8割期待 89がん治療費、75%が説明不足 90がん対策情報センター
91がん対策情報センター 92治療の間も我慢は禁物 93延命の中止・差し控え
94 癌学会学の注目情報はコレだ 95がん対策基本法来年4月施行  96延命治療の中止を巡って(1) 殺人罪
97 延命治療の中止を巡って(2) 98 延命治療の中止を巡って(3) 99胃がん検診:欠かせぬ、精度向上
100体験300件…過剰な措置 「望まない」8割
100読者の意見・体験300件…過剰な措置 「望まない」8割 (2006年8月7日 読売新聞)

「管だらけの父」母に伏せた/回復の見込み慎重に見極めを「延命・最期の選択」には、読者から多数の反響が寄せられ、手紙、電子メールなど計約300件に上った。

 看護師を目指す高校生から、福祉施設に入所している女性(94)まで、延命治療への世代を超えた関心の高さがうかがえた。8割近くは、家族を看取(みと)った経験などから「過剰な延命措置は望まない」との意見だった。 大阪府の男性(57)の父は、心筋梗塞(こうそく)で倒れた。心臓が破裂し、人工心肺装置や人工呼吸器、輸血など何本もの管につながれた。

 「あと1週間持つか持たないかです」。集中治療室に運ばれて2日目、外科部長に言われ、「(管を)外してもらえますか」と申し出た。父は常々、「何かあっても、過剰な延命はいらない」と話していたからだ。 3時間後、病院の倫理委員会の承認で、男性と父の兄弟が見守る中、外科部長は人工心肺装置のスイッチを切った。

 すべての管が抜かれた後、「眠るように亡くなったよ」と母を呼んだ。「父のイメージを壊したくない」と、父が管だらけの状態だったことは、14年たった今も、母に伏せている。 現在、自らも心臓病と闘う男性は「家族には、延命措置は望まないと告げている。治療を尽くし、助からない時は安らかに最期を迎えたい」と話す。

 今年1月に妻(当時76歳)を看取った東京都江東区の男性(74)は、「もう助からない、と医師から説明され、心の中で妻に謝りながら、昇圧剤の投与をやめてもらった。今も罪悪感で心が痛む」と振り返る。がんを患うこの男性は、それでも「自分自身は、延命措置を断る文書を枕元に置いてある」という。 一方、「末期患者の延命措置といっても、治療を尽くせば助かる命もあるのではないか」との指摘もあった。

 横浜市の会社員男性(42)の父(72)は昨秋、療養先の病院で肺炎を起こした。発熱し、息苦しそうな父の前で、主治医は「寿命なので、何をしてももう無理です」と言い放ち、酸素吸入も抗生物質の投与もしなかった。 ところが、転院して治療を受けたところ、肺炎は治った。「本当に回復の見込みがないのか、慎重に見極めるべきだ」と訴える。

 「末期がんの父が亡くなる間際、家族がそろうまで人工呼吸器を着けてほしいと頼んだが、『一度着けると外せない』と言われ、あきらめた」(山形県・女性)という体験もあった。 延命治療の費用を巡る投書も多く、「この先いくら医療費がかかるか不安」(夫が入院中の40歳代女性)など50件を超えた。

 医師、看護師、介護職員らからも様々な意見が寄せられた。その中で「人間の尊厳を考えて呼吸器を外し、刑事責任を問われたり批判されたりするより、何も考えず、心停止まで延命措置を続ける方が気が楽。しかし、とてもむなしい気持ちになる」(医師)とのメールは印象的だった。
99胃がん検診:欠かせぬ、精度向上 毎日新聞13:31 2006/09/27

 胃がんは日本人のがん死の第2位だ。早期発見で少しでも死者を減らしたいと、胃がん検診が広く実施されてきたが、従来は、実際の効果についての調査が手薄だった。厚生労働省の研究班は今年、エックス線撮影による胃がん検診は「死亡率を減らす証拠がある」とする結論をまとめたが、これは精度の高い検診を実施した場合についてだという。検診現場の医師や技師からは、精度向上への課題の指摘が相次いでいる。【高木昭午】

 ◇正しくやれば有効だが……
 「右回りに3回転してください」。検査台にあおむけに寝た女性に声がかかった。女性は体をよじってうつぶせになり、再びあおむけに戻った。
 神奈川県労働衛生福祉協会の本部(横浜市保土ケ谷区)で行われているエックス線撮影による胃がん検診だ。「エックス線写真に写るのは、撮影前に飲むバリウムです。体をよく動かして、バリウムを胃の壁に行き渡らせないと、がんがあってもわかりません」。放射線技師で、胃がん検診専門技師の資格を持つ石渡良徳・同協会理事が説明してくれた。

 「検査台の上できびきびと動いてもらうと、よい写真を撮りやすい。また、要精密検査と言われたら必ず精密検査を受けてほしい。精密検査を受けないまま、翌年、翌々年に進んだがんが見つかる人もいます」と言う。 研究班は、今年まとめた「有効性評価による胃がん検診ガイドライン」で、「(受診した人たちの胃がん)死亡率を減らす効果があるという相応の証拠がある」と、この方法を評価し、自治体などでの実施を勧めた。

 米国がんセンターの評価は「死亡率を減らす証拠は不十分」だったが、研究班は国内で実施された過去八つの有効性調査のうち七つで「有効」との結論が出たことを根拠にした。検診を受けると胃がん死亡率が半分程度になるとの結果だった。ただ、減少効果が大きめに出やすい調査法で、実際の効果はもう少し低いと見るのが一般的だ。

 胃がん検診には、内視鏡検査や血液検査によるものもあるが、研究班はいずれも「死亡率を減らす証拠は不十分」と評価した。個人での受診は妨げないが、公共的実施は勧めないという。

 ◇死亡率減少に必要な「管理」
 では、エックス線検診を受ければ、胃がんで死ぬ率は減らせるのか。
 研究班の代表者を務める祖父江友孝・国立がんセンターがん予防・検診研究センター情報研究部長は「有効性が証明された検診でも、精度良く実施しなければ、死亡率は減らない。日本では精度管理ができていない」と指摘する。

 斎藤貴生・前福岡県対がん協会長(現大分県病院事業管理者)らは、福岡県内で市町村の胃がん検診を引き受けていた10の検診機関について、胃がん患者の発見率を調べ、検診専門誌の7月号に発表した。最高で受診者の約0・19%、最低で約0・04%と5倍近い開きがあった。

 斎藤さんは「エックス線写真の質の差と、要精密検査とされた受診者にきちんと連絡し、実際に精密検査を受けてもらったかの違いだ」と分析、「自治体は、検診機関にがん発見率などを提出させ、精度の高い機関を選ぶべきだ」と主張する。

 また、厚労省によると、検診受診者のうち要精密検査とされる人の率も都道府県間で大差がある。京都府の平均は17%、栃木県の平均は6%だ。この率が高すぎると、必要のない精密検査を受ける人が増える。

 ◇施設別発見率検証を
 格差縮小にはどうするか。石渡さんは「放射線技師の撮影技術向上が欠かせない」と訴える。
 検診では、患者1人8枚の写真を2分程度で次々に撮る。この間に患者に適切な指示を出して、胃にバリウムを行き渡らせる。胃の映像から病変の疑いを見て取り、逃さず写す力も必要だ。

 ◇技師、医師の育成が急務
 日本消化器がん検診学会認定の胃がん検診専門技師は全国で1400人余り。「まだ、検診に携わる技師の3分の1程度だ」と石渡さんはいう。
 写真を読む医師の能力も問題だ。早期胃癌検診協会の丸山雅一理事長は7月、厚労省の「がん検診に関する検討会」で「訓練が不十分な医師がパートの仕事で検診をしている。(日常の胃の検査はエックス線が減って内視鏡中心になり)医師の読影能力は落ちている。能力の高い医師を育て直すべきだ」と指摘した。

 祖父江さんによると、英政府は乳がん検診について、がん発見率や要精密検査率に数値目標を設定。各検診機関に毎年実績を報告させている。受診者が年1万2000人以下の施設は、数が少な過ぎて評価が難しいため、検診施設として認めない。祖父江さんは「日本も学ぶべきだ」と話す。

98 延命治療の中止を巡って(3) 異例の裁判 李 啓充 医師/作家(在ボストン)週刊医学界新聞詳細 第2703号 2006年10月13日

〈前回までのあらすじ:1975年,遷延性植物状態の娘(カレン・クィンラン,21歳)の人工呼吸器を外すことを認めてほしいと,両親が訴訟を起こした〉

 遷延性植物状態の患者から人工呼吸器を外してほしいという家族の願いが訴訟へと発展したことで,全米の医療界が何よりも驚いたのは,この一件が「訴訟になった」という事実であった。というのも,当時の米国の医療界では,クィンランのような症例は,「うやむや」のうちに解決されることが慣行となっていたからである。遷延性植物状態の患者は,それこそ「ごまん」といたが,延命治療中止の是非が法廷に持ち込まれたのはクィンランのケースが初めてだった。

 クィンランの訴訟が始まったのは75年10月下旬だったが,裁判のさなか,11月初めにニューヨーク・タイムズに寄稿した論評で,医師兼文筆家として知られたマイケル・ハルバースタムも,「クィンランのような症例では,家族と主治医の間にこれ以上の治療は無意味という合意がいつしか形成され,『静かに』延命治療が中止されることが普通だ」と述べている。延命治療中止の「静かな」方法の例として,ある時点で突然呼吸器を外すかわりに,非常に緩やかなペースで「ウィーニング(呼吸器離脱)」をするという「姑息」な方法も行われたという。

訴訟となった理由
 では,なぜ,クィンランの例に限って訴訟に持ち込まれたかだが,一つの理由として,クィンランの主治医2人の「経験の浅さ」が挙げられている。ロバート・モース医師は,神経内科のレジデントを10か月前に終えたばかりだったし,もう一人のアーシャド・ジャベド医師も,2年前に呼吸器内科のトレーニングを終えたばかりだった。クィンランの主治医2人は「家族の希望を容れて呼吸器を外した後,『死んだのは呼吸器を外したせいだ』と訴えられてはかなわない」と,医療過誤訴訟で訴えられる可能性を危惧して家族の要請を拒否したのだった。もし,経験豊富な医師が家族との交渉に当たっていたら,「静かに」呼吸器を外していた可能性があったのである。

 クィンランの両親は,「呼吸器を外して娘が死んでも,決して医師たちを過誤訴訟で訴えることはしません」と書面で申し入れたとされているが,いざ過誤訴訟で訴えられた場合,書面での事前の保証はほとんど何の意味も持たないし,書面で保証した行為は,逆に医師たちの「手を縛る」ことになったと言われている。というのも,医師たちが殺人罪で訴追される可能性があったことも2人の主治医が呼吸器を外すことを拒否した理由だったのだが,「娘が死んでも構いません」という両親からの書面は,殺人罪で立件された場合,殺人幇助あるいは共謀の「証拠」となりかねないからだった。

訴訟となったもう一つの理由
 さらに,クィンランの事例が訴訟となった理由のもう一つとして,クィンラン一家の弁護を担当した弁護士の経験の浅さも上げられている。クィンラン家の弁護を担当したのはポール・アームストロング,ロー・スクールを卒業して2年目の弁護士だったが,クィンランの父親が「法律相談事務所」を訪れた際に,たまたまケースを担当することになったのだった。
 アームストロングは「人工呼吸器を外すために」という理由を明確にしたうえで「クィンランの父親が代理人として医療上の決定を下すことを認めてほしい」と訴えを起こしたのだが,ただ単に「代理人となることを認めてほしい」という一点に絞って訴訟を起こす方法もあったのである(註)。しかし,「呼吸器を外す」という理由を明確にしたうえで,「尊厳をもって死ぬ権利」を前面に押し立てて訴訟を起こしたために,担当判事はイヤも応もなく「手を縛られる」ことになってしまった。延命治療中止の是非について白黒をつけなければならない立場に立たされてしまったのである。

 「父親が代理人となることを認めてほしい」という両親の訴えに対し,主治医,病院,州検事局などが,「利害関係者」として法廷で反論することになった。主治医・病院が両親の訴えに反対した理由は上述したが,州検事局は「州民の命を守る義務があるし,公然と『殺人』が行われることを認めるわけにはいかない」と介入を決めたのだった。

註:代理人となることを認められた後に,「静かに」呼吸器を外すことに同意する施設に移送するという「現実的」解決法もあったと言われている。
97 延命治療の中止を巡って(2) 遷延性植物状態  李 啓充 医師/作家(在ボストン)
連載〕続 アメリカ医療の光と影  第93回  週刊医学界新聞詳細  第2701号 2006年10月2日

〈前回までのあらすじ:1982年8月,「延命治療を中止し,患者を死に至らしめた」と,ロバート・ネジルとニール・バーバーの2医師が殺人罪で起訴された〉

 一審で認められた公訴棄却が二審で取り消されたことに対し,ネジルとバーバーは,カリフォルニア控訴審に抗告することを決めた。仮に殺人罪で裁判にかけられたとしても有罪となる可能性は低いと予想されたが,「陪審による評決で無罪を勝ち取っても『判例』として確立されるわけではない。今後,類似のケースで医療者が殺人罪で訴追されることを防ぐためにも上級審に正式の判断を仰ぐ」ことを優先したからだった。

 ここで,カリフォルニア控訴審がネジルとバーバーの抗告に対しどのような判断を下したかを述べる前に,時間をさかのぼって,前回も言及した,「カレン・クィンラン事件」について説明する。クィンラン事件は,「延命治療中止の是非」が法廷で争われた初めてのケースであり,米国においては,終末期治療における医療倫理の原則が確立されるに当たって,文字通り,「新時代を開く」意義を有する事件だったからである。

「カレン・クィンラン事件」とは
 21歳になったばかりのカレン・クィンランが,友人の誕生日を祝う席で意識を失ったのは,75年4月のことだった。倒れたカレンを酒場からアパートに連れ帰ったのは,同室の友人たちだった。ベッドに寝かせてから15分後,友人たちはカレンの呼吸が停止していることに気が付いた。救急車を呼ぶと同時に,すぐさま,mouth-to-mouth呼吸を始めたのだった。
 ニュートン・メモリアル病院(ニュージャージー州)に搬送されたカレンは,意識が戻らないまま,人工呼吸器につながれた。9日後,神経専門医がいるセント・クレア病院に転送されたが,回復の兆しはなく,やがて,経管栄養が始められた。カレンの病状が,いわゆる「遷延性植物状態(PVS: persistent vegetative state)」に固定してしまったことで医師たちの意見は一致した。

 両親をはじめ,家族たちは献身的に介護を続けたが,カレンの状態は見るに堪えなかった。「植物状態」という言葉からは,あたかも「平和そうにすやすや眠っている」状態が想像されるかもしれないが,カレンは,まるで,入れられたチューブを外そうとするかのように,信じられない角度まで首をねじったり,うなり声を上げたりするのだった。経管から入れられた栄養液を嘔吐することもしょっちゅうだったし,嘔吐するときのカレンは,とりわけ,苦しそうに見えるのだった。

本人の意思を尊重し呼吸器外しを要請
 家族にとって「カレンの意識は,もう,絶対に戻らない」と,諦めがつくようになったのは,75年9月,入院後5か月が経過した時点だった。家族は,元気だった頃に,「植物状態になって,機械につながれたまま生かされ続けるのはイヤ」とカレンが語ったことがあるのを覚えていた。「もし自分で決めることができたとしたら,カレン自身はこんな状態で生き続けることは絶対に望まないに違いない」ということで,家族の意見は一致したのだった。
 家族は教会の牧師にも相談したが,牧師は,「生命を尊重しなければならないのはもちろんですが,延命のために(人工呼吸器をつけるような)『非常(extraordinary)な』処置を受ける義務はないと,法王ピアス12世もおっしゃっています」と,延命処置を中止するという家族の意向はローマ教会の考え方と矛盾しないと説明したのだった(註)。

 家族にとって,「呼吸器を外す」という決定が,容易なものであるはずはなかった。しかし,「呼吸器を外してほしい」と医師たちに要請したことが全米の注目を浴びるような大事件に発展し,さらに大きな苦難が始まるなど,誰も夢にも思っていなかったのだった。

呼吸器外しは殺人
 家族にとって,最初の「予想外」は,カレンの主治医,ロバート・モース(神経内科医)が,「呼吸器を外してほしい」という要請を拒否したことだった。モースが家族の要請を拒否したのは,カレンの状態が「脳死」の条件を満たしていないからだったが,当時,アメリカ医師会も,「安楽死は殺人と変わらない」としたうえで,「患者に死をもたらすとわかっている状況で呼吸器を外す行為は安楽死」という立場を取っていた。モースをはじめ多くの医師にとって,「呼吸器を外す」行為は,「医療の『標準』から逸脱する」と考えられていたのである。
 主治医から呼吸器を外すことを拒否された以上,カレンの両親にとって,「娘を安らかに眠らせてやりたい」という親としての切実な願いをかなえる手だては,法的手段に訴える以外になくなったのだった。

(この項つづく)
註:カレンが入院したセント・クレア病院はカソリック教会が運営する病院だったが,教区の牧師の説明とは反対に「呼吸器を外す行為は殺人」という立場を取ったのだった。
96〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第92回  週刊医学界新聞 第2699号 2006年9月18日
延命治療の中止を巡って(1) 殺人罪  李 啓充 医師/作家(在ボストン)(2697号よりつづく)

 1982年8月18日,ロサンゼルス郡検事局は,「延命治療を中止し,患者を死に至らしめた」と,ロバート・ネジル(56歳,外科医),ニール・バーバー(49歳,内科医)の2医師を殺人罪で起訴した。  「殺人の被害者」となったのは,クラレンス・ハーバート(55歳),81年8月下旬,「ありきたり」の消化管手術を受けるために,同郡ハーバー市のカイザー・パーマネンテ病院に入院した患者だった。手術終了後,回復室で心肺停止状態となり,蘇生に「成功」したものの昏睡状態に陥り,人工呼吸器につながれたのだった。

 昏睡に陥ってから3日後,家族の同意の下に,呼吸器が外された。しかし,呼吸器を外した後も患者は自力で呼吸,2日後,今度は,点滴と経管栄養が外された。患者が亡くなったのは点滴と経管栄養が外されてから6日後だったが,医師たちの処置に疑問を抱いた看護師が通報,検察当局が介入することとなったのだった。

州法が認めた2条件
 「事件」発生から1年近くが経過してからの起訴に当たって,担当検事は,「業務上過失のような悪意が伴わない『犯罪』とは違う,明瞭な意図の下に行われた『殺人』」と,2医師の行為の「悪質さ」を強調した。当時,カリフォルニア州法は,「脳死」あるいは「患者が事前に書面で延命治療を受けることを拒否」していた場合の2つの状況に限って延命処置の中止を認めていたが,担当検事は,「この事例は州法が認めた2条件に適合しないし,2医師の行為は患者を死に至らしめたのだから,殺人を犯したと言わざるを得ない」と,起訴の理由を説明したのだった(なお,起訴当時,検察当局は動機については「不明」としていたが,後に,「医療過誤の事実を隠蔽するために患者を殺した」とする「奇説」を主張することになる)。

ガイドライン作成の理由
 いまでこそ,米国の医療界では延命治療の中止は「ルーティン」となっているが,ネジルとバーバーの2医師が起訴された80年代初めは,まだ,延命治療を中止したら「殺人罪」など刑事罰に問われるのではないかという不安を抱える医療者が多い時代だった。実は,ロサンゼルス郡の医師会と弁護士会とが,81年に,共同で延命治療の中止に関するガイドラインを作成していたのだが,「延命治療を中止した後に訴追されるのではないか」という医療者の不安を解消することがガイドラインを作成した理由だった。このガイドラインでは,「脳死・患者の同意」以外にも,「回復が見込めない昏睡については家族の同意があれば呼吸器を外すことができる」としていたが,ネジルとバーバーは,神経内科専門医にもコンサルトしたうえで,「ハーバートの昏睡は回復不能」と判断,家族の同意の下に延命治療を中止したのだった。

人道的かつ「心優しい」行為
 ネジルとバーバーの2医師を殺人罪に問う裁判が始まったのは翌83年1月のことだったが,被告側は「起訴は不当」と公訴そのものを棄却することを主張,予審段階で起訴の妥当性を巡る審問が行われることとなった。被告の2医師を支援するために審問で証言した医療関係者は多かったが,UCLA医学部脳外科教授シドニー・グロスもその一人だった。グロスは,「患者に回復の見込みはまったくなかったし,2人の医師がしたことは人道的かつ『心優しい』行為だった」としたうえで,被告側弁護士の質問に答える形で,「自分も延命処置を停止したことが何度もある」と証言した。「もし,こういったケースで医師が延命処置を際限なく続けていたら,無数のカレン・クィンラン(註)を作り出すことになってしまう」と延命処置中止の理由を説明したのだった。

覆った裁定
 同年3月,担当判事のブライアン・クラハンは「犯罪が行われたとする嫌疑を抱かせるだけの証拠は不十分」と公訴棄却の決定を下した。「もし,『延命治療を中止したら殺人』ということになったら,逆に延命治療の開始を尻込みする医師が増え,助かる人も助からなくなってしまう」とクラハンは決定の理由を説明した。
 これに対し,検察側は州高等裁判所に抗告,クラハンの決定を取り消すよう求めた。5月,再審問を担当したロバート・ウェンキー判事はクラハンの裁定を覆し,「起訴は相当,2医師を殺人罪で裁判にかけねばならない」とする決定を下した。ウェンキーは,「州法は,延命治療が中止できるのは『脳死と本人の同意がある場合だけ』と,明瞭に規定している。法の規定に照らす限り,2医師は殺人罪の嫌疑を免れることはできない」と,公訴棄却決定の取り消し理由を説明したのだった。 (この項つづく)
註:75年,21歳で植物状態となった女性。両親は人工呼吸器を外すよう求めたが,医師たちが拒否,法廷で延命治療を中止することの是非が争われた。
95がん対策基本法来年4月施行 正しい知識の浸透こそ急務 山陰中央新報 2006/10/4

 がん対策基本法が来年4月、施行される。国、都道府県は来年度中にも法に沿った基本計画を策定。島根県では実効性の高い計画の作成、実行につなげるため、がん対策推進条例が9月県議会で議員提出され、成立した。予防策や医療レベルの向上とともに、緩和ケア充実への期待も膨らむ。県内で唯一緩和ケア病棟を備える松江市立病院の安部睦美緩和ケア科長に法、条例が成立した意義や緩和ケアの充実に向けた課題などを聞いた。
 医師研修行政主動で −法、条例成立の意義は。

 「基本計画の内容がまだ決まっておらず、中身次第といったところだが、がん対策への関心を高めた意義は大きい。今後の計画策定で、患者や家族の声をしっかり反映させることが重要だろう」

昨年の島根県内死亡者(8,557人)の原因内訳

 −法で緩和ケアの早期実施がうたわれ、国は来年度から関連施策として早期の医療用麻薬の使用に関する講習会を行うなど対策に乗り出す方針を打ち出している。
 「対策は評価するが、その前に緩和ケアに関しては一般市民だけでなく、医療関係者でさえも誤った認識を持っていることが珍しくない。正しい知識を浸透させないと、取り組みの効果は限定的になってしまう」
 −誤った認識とは。
 「終末期医療と位置付ける医療提供者、緩和ケア病棟に来ると最期を迎えたと思い込む患者がいる。緩和ケアは身体的、精神的な痛みを和らげるのが目的。初期は治療を、治るのが難しくなった場合は緩和ケアを主体にするなど、病気の進行具合で治療と緩和ケアのバランスを変えていかなければならない。緩和ケアは初期から必要で、欧米では痛みがあればモルヒネを初期から積極的に使うが、日本では戸惑いを持つ医師がおり、終末期になって『そろそろモルヒネを使う時期ですよ』などと患者に言う。誤解だけでなく、不安までも患者に与える医療は早急に改めなければならない」

 −正しい知識の浸透で国、地方自治体に期待することは。
 「病院に研修を丸投げする従来の手法には限界がある。ここ10年ほど緩和ケアに関する医師研修は行われてきたが、緩和医療学を教える大学がほとんどないこともあって正しい知識、理解が浸透していない。行政機関は法の趣旨に沿い、医療提供者の意識改革が進む計画を立て、研修を主動的に行うべきだ」
 −初期から緩和ケアを行うメリットは。
 「がんだと診断されたことによる精神的苦痛と身体的な痛みを和らげることができれば、病気を真正面から受け止めることができ、治療効果の向上に結び付く。当院の緩和ケア病棟に来る人には『生きるために来てください』と伝えている」
 −県内では、6つのがん診療拠点病院すべてに患者たちによる院内サロンが開設され、9月末には県推進条例も成立した。がん対策向上への機運は高まりつつある。
 「サロンの院内開設は、数年前なら考えられなかった。患者さんたちは組織連携や情報収集に熱心なので、医療関係者や行政機関は真摯(しんし)に声を聞かなければならない。がん対策への関心が拡大し、理解が浸透しやすい今こそ、関係者は正しい知識を発信しなければならない」

94癌学会学の注目情報はコレだ  GENDAI NET 2006/10/11

早期大腸がんにはESDだ
 第65回日本癌学会学術総会が、きょう(28日)から、横浜で始まった。発表される2326の最新研究結果の中から、ぜひ知っておきたい価値ある研究を選び、研究者たちに話を聞いた。 早期胃がんでは標準化しつつある内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という病変を一括で切除する技術は、大腸がんでは壁が薄く穴をあけてしまう“穿孔”の危険性が高いということで一般化していない。

 国立がんセンター中央病院内視鏡部の斎藤豊医師らは、この穿孔の危険性を少なくしたメスを用いて安全性を高め、早期大腸がんにも積極的にESDを行っている。今学会ではその治療成績を発表する。 「ESDでは、内視鏡下に、先端に電流が放電しないような工夫をしたBナイフやITナイフで病変をはぎ取るように一括切除していきます。対象となるのは、がんの深さが粘膜から粘膜下層の浅層までにとどまる早期がんです」

 この2年間に行われたESDは200例で、そのうちの170例(85%)が完全に治っている。小穿孔を10例(5%)に認めたものの、9例は内視鏡的にクリップ縫縮がされ、保存的に治癒したが、1例のみ腹痛が強く傷を閉じることができずに緊急手術を要した。

 ESDを行った残り30例は、がんが思ったより深く入っていたり、脈管侵襲があったりして、病理組織の問題から追加の外科切除が必要となった。
「従来のワイヤをかけてとる内視鏡治療(EMR)では、がんの大きさが2、3センチまでが一括切除の限界でしたが、ESDでは4センチ以上が75例、10センチを超えるものも7例あります。最大で14センチのがんもうまくいっています。大きさが大きくても、病変が浅ければ、ESDを行えるのです」
 がんの表面の構造を100倍まで拡大して見ることができる拡大内視鏡で、がんの深さを正確に判断できるようになったこともESDの適応拡大に寄与している。
 大腸ESDを受けることができれば、患者の負担は外科手術よりもケタ違いに軽くなる。
「大腸ESDでは軽い麻酔をかけるだけなので、患者さんと話をしながら治療ができます。お腹に傷がつかないし、手術後の痛みも少ない。外科手術を受けると3週間くらい入院が必要なのに対して、ESDは4泊5日で済む。当日と翌日は禁食ですが、3日目にはおかゆをとることができます」

 正確な術前診断に加え、穿孔を予防する工夫がなされ大腸ESDが行えるようになったおかげで、従来外科手術が必要な症例に対しても安全に内視鏡治療をすることが可能となったのだ。しかしながら、それでも穿孔の危険性はゼロではなく緊急手術の可能性もあるため、現時点では、どこの施設でも行える治療ではない。

「また病変が大きくても、従来の分割切除でも対応できる病変もあるので、治療の際は治療法について十分担当医と相談することが必要です」
 大腸ESDを数多く行っているのは、国立がんセンター病院のほかには、虎の門病院、自治医大病院、東大病院、岡山大病院、広島大病院、佐久総合病院、岸和田徳洲会病院など。

 カルシウムとビタミンDに、大腸がんを抑制する効果があることがわかった。九州大学医学部の古野純典教授らは、福岡市の大腸がん入院患者840人と、非大腸がんの住民833人を対象に、148食品の摂取頻度と摂取量について調べ、この2成分の摂取量により5グループに分類。その結果、摂取量がもっとも少ないグループを基準にすると、2成分とも摂取量が最大のグループは、大腸がんリスクが有意に低いというのだ。

 まずはカルシウムだ。共同研究者である国立国際医療センター疫学統計研究部の溝上哲也部長に聞いた。
「カルシウムは、最大摂取グループが最少グループより32%もリスクが低い。カルシウムというと乳製品をイメージしますが、牛乳やチーズは脂肪分も多いので、これらだけでカルシウムを取るのはよくありません。小魚や野菜、大豆など幅広い食品で摂取する方が望ましいですね」

 カルシウムは、体内に吸収されにくく、お酢やレモン汁と一緒に取るのがベター。海藻を酢の物にしたり、小魚にレモン汁をかけるといい。
「ビタミンDも、最大摂取グループが最少の組より22%もリスクが下がっています。ただビタミンDは、食品からの摂取だけでなく、紫外線に当たることでも体内で合成されます。営業マンなど屋外でよく活動する人は、体内での合成量が十分に多いため、食品での摂取効果が少なく、屋外活動の少ない人ほど摂取効果が大きく出ました」

 デスクワーク中心の人は積極的にビタミンDを取るべき。よく日に当たる人も取って損はない。 「ビタミンDはカルシウムの吸収を促進する働きもあるのです」  ビタミンDは、シイタケやキクラゲ、サケ、イワシに多い。これらの食品は、ぜひ毎日の食事に取り入れたい。

 肺がんの年間死亡者数は男女合計で約5万6000人に上り、がんの中で最も多い。この厄介ながんの新治療法が光線力学的遺伝子治療だ。東京医大呼吸器外科の加藤治文教授らと研究を進める同大の臼田実男医師に聞いた。

「光線力学的遺伝子治療(PDGT)は、従来の光線力学的治療(PDT)の長所と、遺伝子治療の長所をミックスした治療法です。PDTと同様に、腫瘍が気管支の中枢にあってまだ転移していない中心型早期肺がんに行います」

 PDTは、静脈注射でがん細胞のみに蓄積する光感受性物質を投与。この光感受性物質の効果により、レーザーはほかの組織を傷つけず腫瘍のみに当たり、がん細胞を壊死(えし)させる治療法だ。これに対してレーザーを照射せずに治療するのが、PDGTである。

「PDGTは、遺伝子治療によってがん細胞内で化学発光を起こす酵素を強く発現させ、光感受性物質と反応させます。これでレーザーを当てることなく、細胞内でPDTができるのです。がん細胞が死ぬと、酵素を強く発現させた遺伝子も死ぬため、効き過ぎなど副作用の心配がなく、安全。レーザーを使わないので、コストが安く、どこでもだれにでもできる画期的治療法なのです」

 現在は、酵素の発現強度をいかに高めるかがネックで、実用化には至っていないが、実験レベルでの抗腫瘍効果は十分という。
 肺がんは5年生存率が30%ほどと低いが、この治療法が確立されれば、怖い病気ではなくなるかもしれない。
93延命の中止・差し控え…医師苦悩、重い裁量  (2006年7月31日 読売新聞)

「一人で判断」46%…本紙調査240病院回答
 回復の見込みのない末期患者に対し、56%の病院が延命措置の中止や差し控えを行っていたとの本紙調査で、終末期医療について明確な指針がないまま、最期を迎えようとしている患者の医療が医師の裁量にゆだねられている実態が浮かび上がった。

適法性の認識
 「装着した人工呼吸器を取り外すことはある。措置を続けることで植物状態の患者をつくってはいけない、と思うから」(関東・公立病院副院長)

 「患者の苦痛を除くのが医療。延命措置が苦痛を与えることもあり、措置の差し控えは問題ない」(東北・公的病院長)
 「後に刑事事件になったり、家族ともめたりするので、呼吸器は絶対に外さない」(北海道・公立病院長)
 240病院が回答した本紙調査では、延命措置の中止・差し控えの是非を巡って、医師たちの意見は大きく割れ、医療現場の混乱ぶりがうかがえた。

 その要因は、延命措置の中止・差し控えの適法性に対する認識の違いにある。「法的に問題がある」「法的に問題はあるが、医療行為としては問題ない」がそれぞれ26%、「法的にも医療行為としても問題ない」20%と回答が分散。「患者によって異なり、問題があるとも、ないとも言えない」という答えも目立った。

 「法的に問題」とした病院の大半は、延命措置のあり方を規定する法律など統一ルールがないことを根拠に挙げ、ほとんどが「延命措置の中止・差し控えはしていない」とした。「回復が見込めない患者に行う措置に疑問を感じつつも、続けざるを得ない」と悩みを訴える声もあった。一方、中止・差し控えを行ったのは、「医療行為として問題なし」とした病院が中心だった。

決定の透明性 
 延命措置を中止する条件などを定めた病院独自の指針を設けているのは、21病院(9%)にとどまり、明確な指針を持たないまま、医師の裁量で措置の中止や差し控えが行われている現状が浮かび上がった。人工呼吸器の取り外し問題が起きた富山県・射水市民病院は、主治医の外科部長がほぼ独りで取り外しを決めていたとして問題視している。今回の調査でも「医師が単独で決めた」との回答は46%に上った。

 2002〜04年に厚生労働省の終末期医療に関する検討会委員を務めた定山渓病院(札幌市)の中川翼院長は「延命措置を決定する過程の透明性を確保する体制整備が必要だ」と指摘する。今回の調査でも、射水市民病院の問題を受け、「院内の指針を年内か近いうちに作成する」とした病院は36を数えた。ただ、「国の指針がない中では、独自の指針は作れない」との声も少なくなかった。

 イギリスやドイツ、オランダでは、法律家や倫理学者を交えた院内や地域医師会などの委員会が、延命措置の中止に関する医学的判断や手続きが適正かどうかをチェックしている。甲斐克則・早稲田大教授(刑法・医事法)は「終末期の問題にも対応できるよう倫理委員会を整備し、積極的に活用すべきだ。一つの病院の倫理委が、地域の他の病院の審査を担当する方法もある」と話す。

意思の確認
 延命措置を巡っては、患者本人や家族の意思をどう反映するかが重要だ。1995年の東海大安楽死事件の判決は、延命措置を中止した医師の刑事責任が問われない条件の一つに、「患者の意思か、家族による患者の意思の推定がある」ことを挙げた。だが、今回の調査でも、患者の意思をくみ取ることの困難さがうかがえる。

 高齢者が入院する療養型の病院では、多くが認知症などで本人の意思を確認できず、「家族の意思で決めるが、延命措置を望む家族の希望と、回復見込みのない患者の病状との乖離(かいり)の大きさに悩むことはある」(近畿・私立病院長)という。

 救急患者が緊急治療で一命をとりとめたものの回復が見込めない場合、関東の公立病院副院長は「措置を中止するかどうかの決断を家族に求めるのは酷。家族との『あうん』の呼吸で決める」と語る。独自の指針を持つ病院の約4割は、患者の容体が安定している時に、本人や家族に文書で意向を確認する「事前指示書」などを採用していた。

 東海大安楽死事件 東海大学病院(神奈川県)の医師が1991年、末期がん患者に塩化カリウムなどの薬剤を注射し、死亡させた。横浜地裁は医師に殺人罪で有罪判決をくだし、確定した。判決は延命措置の中止が罪に問われない3条件を示した。

終末医療、72%「全国ルール必要」…厚労省、年内めどに指針
 射水市民病院の問題を機に、厚生労働省は年内をめどに、終末期医療に関する指針を作る方針だ。患者や家族の同意の取り方や、倫理委員会など複数の関係者による承認といった、延命措置の中止・差し控えを決める上で必要な手続きを盛り込むことにしている。

 今回の調査で、72%の病院が、終末期医療について社会的合意を得たり、患者・家族に説明したりするため「全国的な統一ルールが必要」と主張したが、その枠組みは、個々の患者の事情などに応じて適切な措置がとれるよう、法制化より緩やかな「指針」を望む声が多かった。学会レベルでも、日本救急医学会や日本集中治療医学会、全国約2100病院が加盟する全日本病院協会も同様の指針作りを進めている。

ルールなき現場戸惑いくっきり
 今回の調査の分析などに協力した国立保健医療科学院・林謙治次長(厚生労働省の終末期医療に関する研究班長)の話「法的・倫理的な問題を抱えながら、自らの裁量で延命措置の選択をしなくてはならない医療現場の戸惑い、苦悩が読みとれた。それが終末期医療に関する統一ルールを求める声の大きさになったのだろう。ルール作りの大切さとともに、国民が『死』をどう受け止めるか議論する必要を感じた」
92治療の間も我慢は禁物 (2006年8月29日 読売新聞)

 神奈川県の会社員、Aさん(26)は、今年の春ごろから、なんとなく足が動きにくい感じがして、やがて腰痛も始まった。腰痛は姿勢が悪いせいと思い、指圧や整体に通った。 しかし、痛みは増していく。体を折り曲げていないとつらいほどになり、整形外科を受診した。ところが、骨の画像を撮るMRI検査台の上では、痛みで10秒も体をまっすぐに保てない。「撮影できないと、診断は無理」と治療を断られた。

 実はその1年余り前に小さな脳腫瘍(しゅよう)が見つかり、東大病院などで抗がん剤と放射線の治療を受け、完治したと思われていた。
 あまりの痛みに、「がんのせいでは」と疑い、東大放射線科を受診。助教授の中川恵一さんが痛み止めを点滴しながらMRI検査を行うと、脊髄(せきずい)にがんが再発し、神経を圧迫していることがわかった。

 Aさんは、そのまま入院し、強い麻薬系鎮痛薬のモルヒネの錠剤を処方された。薬を飲んで約2時間で痛みはひいた。「ずっと刺さっていた針が抜けたようだった。麻薬と聞いて不安だったけど、治療が進むと減らせるというので安心した」と振り返る。

 骨などに転移したがんは、神経を刺激し、激しい痛みを引き起こす。アスピリンなど非ステロイド系抗炎症薬が効かない強い痛みには、痛みを感じる中枢に作用する麻薬系の鎮痛剤が使われる。

 麻薬と言うと、快感から依存のような中毒を招く印象がある。しかし、「強い痛みがあって、高い容量の麻薬を必要とする場合でも、正しい使い方をしていれば、中毒にはならない」と中川さんは説明する。

 Aさんは薬で痛みを抑えながら、脊髄のがんに放射線治療を受け、1か月で退院。その後、麻薬系の鎮痛剤は使っていない。通院による抗がん剤治療で完治を目指す。今は仕事に復帰し、「スノーボードをしたい」と若者らしい笑顔を見せる。

 中川さんは「治療の間も、痛みをがまんして得することは何もない」と強調する。痛みはつらく、食欲不振や睡眠不足の原因となり、体力を消耗させる。
多くの患者を治療してきた中川さんは、「痛みを止めた方が早くよくなる。免疫力も上がるのではないか」と語る。

 がん治療では、苦痛を取り除く治療が軽視されがちだった。そのため、今年6月に成立した「がん対策基本法」には、痛みの除去を含む緩和ケアを「早期から適切に行う」と明記し、重要性を強調した。今、注目を集める痛みの治療を紹介する。

 早期からの緩和ケア 従来、がん治療に打つ手がなくなると、苦痛を取り除くことを主眼にする緩和ケアに移ると考えられてきた。しかし、今は、早期から、苦痛や治療に伴う不快な症状ををやわらげ、心身ともにより良好な状態でがんと向き合う考え方に切り替わってきた。厚生労働省は全国のがん拠点病院への緩和ケア対応医療チームの設置を打ち出している。
#癌ニュース 91がん対策情報センター   知らなきゃ絶対損する健康法の裏技・裏情報 第130号 http://daitaiiryou.com━http://daitaiiryou.ocnk.net/

この国でガン治療を受けるということは、羅針盤なしで太平洋を横断するというのに等しい行為なのです。途中で難破をしたり、見当違いな方向に行ってしまうことでしょう。具体的にいうと、病院間、または医師間のレベル差が激しすぎるのです。また、患者が得られる優良ながんに対する情報が少なすぎるのです。

極端なことを言いますと、Aという病院に行けば助かっていたのが、Bという病院で治療を受けたために亡くなってしまうということは、日常茶飯事なのです。事実、国立がんセンター東病院に他院から転院してきた患者がそれまでに受けてきた治療を調べると、約半数は標準的ではない首をかしげざるを得ない治療を受けてきたという結果が出ているのです。この現状をなんとか改善しようと、来年4月に「がん対策基本法」が施行されることが決まっているのです。


それに先駆けて、国立がんセンターが「がん対策情報センター」を10月1日より開設するのです。これは、迷走するがん患者の誰もが苦労することなくガンに対抗するための情報や知識を得るための場所としてがんセンターのサイトに開設されるのです。今までは、がん情報を集めようと思ったら、個人がネットを始めとする様々な手段を駆使して情報を集めなければなりませんでした。

私みたいに、調べて情報を集めることが苦にならないタイプの人間ならば良いのですが、普通の方でしたらなかなか大変な苦労であるはずです。ですから、この「がん対策情報センター」は、大きな期待を背負っているのです。しかし、残念ながら現在作られているものは、とてもがん患者が欲しているものではないようなのです。

がん患者が欲しているガンに立ち向かうための有益な情報のコンテンツにかけられる予算は、全体の予算のたった1%というのですから驚きです。内容もこれまでのがんセンターのサイトの内容の延長線上であり、米国のがんセンターとも言えるNCIと比較すると全く比べ物にならない程度の内容であるそうです。

がんセンターの医師だけが書いているのでは、決まりきった情報だけになってしまうでしょう。多方面から情報を収集して、ガンに対する有益な情報が広範囲にわたって得られるサイトにしてもらいたいものです。

10月1日オープン がん対策情報センターの真実http://blog.nikkeibp.co.jp/cancernavi/report/0926rep_ncc01.html
90がん対策情報センター:標準的がん治療法、拠点病院など紹介−−あす開設 毎日新聞 2006年9月30日

 全国のがん患者や医療関係者に最新情報を提供する「がん対策情報センター」が1日、国立がんセンター(東京都中央区)に開設される。患者はインターネットのホームページ(http://www.ncc.go.jp/jp/index.html)で、がんの標準的な治療法や病院の情報を集めることができる。医療関係者は、地域のがん登録などで集められた情報の活用、さらに臨床研究や治療に関する情報収集、検査画像の診断支援などを受けられる。

 情報センターは、患者、医療関係者らが全国どこからでも標準的で正しい情報を得られる環境作りを目指して計画された。各地域のがん診療拠点病院とネットワークで結んで、がんに関する情報を一元化した「データベース」を構築していく。

 患者向け情報は、部位ごとのがんの解説、標準的な治療法のほか、全国のがん診療拠点病院の住所・電話番号、緩和ケア病棟のある病院の一覧も掲載。各地の講演会情報も載せる。【永山悦子】
 
「がん」と「自殺」、2つの情報センター稼働へ 日経ネット

 死因1位で年間約30万人が亡くなる「がん」と、8年連続で約3万人を超える「自殺」の対策を強化するための情報拠点として、国が運営する2つのセンターが10月1日から稼働する。
 「がん対策情報センター」は国立がんセンター(東京都中央区)、「自殺予防総合対策センター」は国立精神・神経センター(同小平市)に設置され、それぞれ今年成立したがん対策基本法と自殺対策基本法の趣旨を踏まえて運営される。
89がん治療費、75%が説明不足・東北大調査 日経ネット 2006/10/04

 がん患者の75%は医師から治療費の見通しに関する十分な説明を事前に受けておらず、出費がかさむことで仕事や家計に深刻な影響が生じているとの調査結果を、濃沼信夫東北大教授(医療管理学)らのグループが28日までにまとめた。日本では3人に1人ががんで死亡し、今後も患者数の増加が予想されている。

 がん治療費の説明状況に関する調査は初めてといい、濃沼教授は「医療制度改革で医療費の自己負担が増えることもあり、有効な治療が受けられない患者が出る恐れがある。医師は薬や治療法にどれぐらい費用がかかるかなどの助言を積極的に行うべきだ」と指摘。横浜市で開催の日本癌学会で30日発表する。 グループは全国のがんセンターや大学病院など35施設を対象にアンケートを実施、通院中のがん患者3526人と医師673人が回答した。

がん治療費、「説明十分」は25% 自己負担年40万円 朝日新聞2006年10月02日17時36分

 がん治療の自己負担は年間約40万円で、医師から十分に説明を受けたと感じているのは患者の4人に1人――。東北大の濃沼信夫教授(医療管理学)らの調査でこんな実態が浮かび上がった。横浜市で開かれた日本癌(がん)学会で9月30日、発表した。

 各地のがんセンターや大学病院など35施設の患者約4200人と、医師約700人に、年間の費用負担や医師からの説明状況について聞いた。

 その結果、入院費だけに300万円近く払っている人も少数いたが、一時的な立て替えなどを含む支払総額の平均は93万1000円。収入や年齢で決まる自己負担の上限を超えた分の払い戻しや、民間のがん保険などの給付金が53万8000円あるため、「正味」の負担額は約40万円と推計された。

 このうち健康食品や民間療法を取り入れていた人は6割。平均の支払額は20万8000円で、正味負担額の半分を占めた計算になる。

 だが、こうした負担の説明を医師から「十分に受けた」と感じている患者は24.9%で、「なかった」が56.1%、「覚えていない」が14.9%だった。医師側は「あまりしない」「全くしない」が8割近く、「必ずする」は5.2%にとどまった。

 濃沼さんは「医師側は治療法だけでなく、費用のことも十分説明して患者の同意を得ることが大切」と指摘している。
88便のDNA検査で大腸がん発見、確率8割期待   日経ネット[2006年9月16日/共同]

 大腸などの消化管の壁からはがれ、便に含まれる細胞のDNAを調べることで、がんを効率よく発見する方法を松原長秀岡山大助手らが開発した。横

浜市で28日から開かれる日本癌学会で発表する。  松原助手によると、米国の統計では、現在の便潜血反応検査で見つかる大腸がんは最大2割程度。この方法は8割程度になると期待できるという。

 松原助手らは、大腸など消化器がんの患者らの細胞を調べ、がん細胞では遺伝子に特定の分子がくっつくメチル化という現象が起きていることを突き
止めた。大腸がんの場合は、6カ所でメチル化が起きているケースが多かった。
87大腸がん:傷つかない手術 内視鏡使用、3年200例−−国立がんセンター中央病院 毎日新聞 2006年9月22日 

 開腹手術が必要な大きめの大腸がんを、患者の意識を保ったまま内視鏡で切り取る手術に、国立がんセンター中央病院(東京都中央区)が取り組んでいる。最近3年間で約200人の手術を成功させた。患者の負担が軽いとされる腹腔鏡(ふっくうきょう)手術とも違い、患者の体をメスなどで傷付けることもないため、負担が軽い手術法として注目されそうだ。28日から横浜市で開かれる日本癌(がん)学会で発表する。

 大腸がんの場合、初期のがんでも直径が4センチを超えると、内視鏡で取るのは難しかった。しかし開腹手術が必要なのは本来、がん本体に加え転移のありそうな場所も切る場合。同病院内視鏡部の斎藤豊医師らは「内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術」という方法に取り組んだ。

 肛門(こうもん)から内視鏡を入れ、モニター画面に映る腸内の映像を頼りに、内視鏡先端の電気メスをミリ単位で操作。がんの下側の「粘膜下層」に電気メスを入れ下の層ごと掘り起こすように切り取る。

 03年10月から直径15センチのがんなど従来は開腹手術だったとみられる患者約200人を手術。患者は手術中も医師と話せ手術時間は平均1時間半。大半は4泊5日で退院した。開腹なら2、3週間入院が普通という。

 患者のうち30人は、手術後の検査で転移の危険が残るとされ開腹手術も受けたが、残る170人は内視鏡で治療を終えた。腸に小さな穴が開いた患者が10人いたが9人は内視鏡で処置でき、緊急の開腹手術が必要になったのは1人だった。

 難しい方法で、実施している主な病院は東京大病院、虎の門病院、自治医大病院、佐久総合病院、岡山大病院など少ない。【高木昭午】
86終末医療初の指針、厚労省が原案 (2006年9月15日3時3分 読売新聞)

 厚生労働省は14日、がんなどで回復の見込みがない終末期の患者に対する治療を中止する際のガイドライン(指針)原案をまとめた。

 治療方針の決定は、患者の意思を踏まえて、医療チームが行い、患者と合意した内容を文書化する。患者の意思が確認できない時は、家族の助言などから最善の治療を選択する。また、患者らと医療チームの話し合いで、合意に至らなかった場合などは、別途、委員会を設置し、検討することが必要としている。終末期医療をめぐって国が指針を作るのは初めて。

 厚労省は、原案を同省のホームページ上で公表し、国民から幅広く意見を募る。さらに有識者による検討会を設置し、年内をメドに成案をまとめる方針だ終末期医療に関するガイドラインは、今年3月に富山県射水市の市民病院で、末期がん患者らの人工呼吸器を取り外し、死亡させた問題が発覚したのを受け、川崎厚労相が医療現場の混乱などを避けるため、作成の方針を打ち出していた。

 原案は、まず、主治医の独断を回避するため、基本的な終末期医療のあり方として、主治医以外に看護師なども含めた多くの専門職からなる医療チームが、慎重に対処すべきだとした。どのような場合でも、「積極的安楽死」や自殺ほう助となるような行為は医療として認められないと明言。その上で、終末期の患者について延命治療などを開始したり、中止したりするなどの治療方針を決める際、〈1〉患者の意思が確認できる〈2〉意思が確認できない――のケースについて必要な手続きを示した。

 〈1〉の場合は、医療チームの十分な説明に基づき、患者本人が意思を示した上で、主治医などと話し合い、その合意内容を文書にまとめるとした。文書作成後、時間が経過したり、病状の変化があったりした場合は意思を再確認することも求めた。一方、〈2〉の場合は、家族の話から、元気だったころの患者の意思を推定する。家族がいなかったり、家族間で判断が割れる場合は医療チームが判断する。

 いずれの場合も、医療チーム内で意見が割れたり、患者と合意できない場合は、複数の専門職で構成する委員会をもうけ、治療方針を検討・助言させるとしている。

 今年5〜6月、読売新聞社が全国の病院を対象にした調査で、72%が終末期医療に関する全国的なルールが必要と回答し、6割が国などの指針を求めていた。
85メタボリックで胃がんリスク高まる…東大チーム (2006年9月16日 読売新聞)

「抗がんホルモン」分泌減少
 内臓の周りに脂肪がたまる内臓脂肪症候群(メタボリック・シンドローム)に陥ると、動脈硬化や糖尿病だけでなく、胃がんのリスクも高まることが、東大腫瘍(しゅよう)外科の北山丈二講師らの研究でわかった。肥満解消が、がんの予防や再発防止にもつながる可能性を示す成果と言えそう。今月下旬に横浜市で開かれる日本癌(がん)学会で報告する。

 北山講師らの研究チームは、脂肪細胞から分泌される「アディポネクチン」というホルモンに着目した。脂肪の燃焼を助ける働きなどをするが、内臓脂肪症候群になると、分泌量が減り、血液中の濃度が下がる。チームが突き止めたのは、アディポネクチンに強力な抗がん作用があること。ヒトの胃がん細胞を移植したマウスにこのホルモンを投与すると、腫瘍が最大で9割も減少した。

 さらに、胃がん患者75人の血液中のアディポネクチン濃度を調べたところ、がんの進行した患者ほど濃度が低かった。このホルモンは、胃がん細胞と結合しやすい構造をしており、結合したがん細胞を殺す働きがあるとみられる。抗がん作用は、血液1ミリ・リットルあたりの量が0・03ミリ・グラムを超えると強まる。内臓脂肪症候群の人の濃度は、その5分の1〜6分の1という。がん増加原因として、脂肪の過剰摂取が挙げられるが、がんを引き起こす仕組みは十分に解明されていない。

 内臓脂肪症候群に詳しい松沢佑次・住友病院(大阪市)院長「乳がんや子宮がんと内臓脂肪の関連も最近指摘されている。一層の研究を進める必要がある」
84「検診怖い」 でも勇気出して(2006年9月22日 読売新聞)本田 麻由美記者

 読者の皆さんから届くお便りは、何よりの励みになる。特に、前回の「転移の恐怖 見つめた命」(8日付)には、がんと向き合う心を丁寧に綴(つづ)ったものが多く、考えさせられた。

 「結果を聞きに行くのが不安でたまらない」。乳がんを疑っている千葉県の主婦A子さん(37)は、胸のしこりの検査結果が出る日の朝、そんなメールを送ってくれた。多くの人ががんと闘い、共存する時代だと分かっていても、自分のこととなると冷静ではいられない。「13年前、父をがんで亡くした。初期がんだったのに……との思いが、希望を持つことを阻んでいる気がする」と言う。

 肉親の闘病を間近で見て、〈がんは恐ろしいもので助からない病気〉という思いにとらわれてしまうケースは、少なくない。卵巣がんで57歳の母親を亡くしたB子さんは、「検診を受けるのが怖くなった」と告白する。「母のことがあるので、がんになる可能性が高いのでは、と周囲の人は心配するが、母から受け継いだ遺伝子を中傷されたような気もして、とても検診に行く気にはなれなかった」

 それでも、みんな勇気を出して前に進んでいる。A子さんは、「結果がどうあれ立ち上がらねば。自分を説得しながら行ってきます」とメールを結んでいた。B子さんも迷った末に検診を受けたという。私も同じような経験があるだけに、2人の気持ちは痛いほどよくわかった。

 また、乳がんの骨転移で治療中の女性からは、前回コラムの「転移再発した乳がん患者の生存期間中央値は4年ほど……」という部分について、「じゃあ私は、あと3年と少しなんだ、と大変ショックを受けた。もう少しきちんと説明して欲しかった」という指摘があった。

 「生存期間中央値4年」というのは、再発転移した乳がんの場合、現状では、生存期間の目安になるのが4年くらい、という意味だ。治療成績の生存期間の分析などに使う値で、実際には、もっと長く生きる人もいれば、短い人もいる。しかも、私が最初の手術を受けた4年前は「約2年」とされていたので、治療の進歩で今後もっと延びる可能性がある。

 一方、届いた手紙の中には、「転移は悔しいが、死の準備をする時間が持てるのは幸せなことだと思う」という意見もあった。私もそうは思うが、実際に命の期限と向き合って行動できるだろうか、と考えると、答えは見つからない。
◇ お便りは〒100・8055読売新聞東京本社社会保障部へ。Eメール(ansin@yomiuri.com)。
83高血糖が胃がん発症のリスクにも 心配なのは糖尿病だけではなかった (記事提供:保健同人社)

 健康診断などで「血糖値が高い」といわれると、糖尿病のリスクだけを考えがちだが、じつは、がんの発症とも関連していることが、九州大学医学部の研究によって明らかにされた。同学部環境医学講座(清原裕教授ら医師13人、本年2月九州大学病態機能内科学久山町研究室が独立)では、福岡県久山町において住民の協力のもと44年間にわたって継続的な健康診断とそれに基づく疫学調査、いわゆる「久山町研究」を行っているが、その成果の一つとして4月20日の第92回日本消化器病学会総会で報告されたものだ。

 発表にあたった同研究室の池田文恵医師によると、久山町研究室が着目したのは、ヘモグロビン(Hb)A1Cの値と胃がん発症の関連だ。血液中の糖分が増えると、ヘモグロビンに糖が付着し、たんぱく質に糖がまぶされ多様な状態で化学反応をおこす、いわゆる「糖化」という現象がおこる。このプロセスでできる物質がHbA1Cである。対象は久山町在住の40歳以上の住民で、胃切除や胃がんの既往のない2603名(40〜96歳、平均年齢は59.2歳)。追跡期間は1988年から2002年までの14年間で、その間に胃がんを発症したのは97人だった。

高血糖では発症率が2倍。血糖値上昇の新たな警鐘にも
 久山町研究では、さまざまな角度から高血糖と胃がん発症のリスクについて検証しているが、図は、対象者をHbA1Cのレベル0.5%きざみで四群に分け、それぞれの胃がん発症率を求めたものだ。HbA1Cレベルの上昇とともに胃がん発症率も上昇し、最大ほぼ1.7倍という有意な差が見られた。6.5〜6.9%以上で発症率が頭打ちになっているのは、HbA1Cが高い群では、虚血性心疾患や脳卒中などによる死亡など、追跡から脱落している可能性があると見られている。
高血糖とピロリ菌感染は、胃がん発症に相乗リスク
研究では、胃がんの危険因子として一般的にもっとも強力視されているピロリ菌感染との関係も調べている。この検討では、HbA1Cの値が正常でピロリ菌の感染がない群を基準にすると、HbA1C高値かつピロリ菌陽性の群でのみ相対危険が3.5倍と有意に上昇していた。

「つまり高血糖とピロリ菌感染には、胃がん発症に関して相乗リスクがあることを示唆しています」(池田氏)
 また、追跡期間を7年までの前半と、8年から14年の後半に分けて検討してみた結果、後半でのみ有意に上昇していた。高血糖に長期間さらされることが、胃がん発症のリスクを高めているものと見られる。

 このようなことから「とくにピロリ菌陽性で血糖の高い人は高危険群と見て、これらの人々は血糖のコントロールを十分に行うことが大切です」と池田氏は警鐘を鳴らす。またピロリ菌除菌適応を考えていくうえで、ハイリスク群を特定する必要から、このようなHbA1Cのデータが参考になることも考えられる。

 一方、血糖値のわずかな上昇も長期間続くと、糖尿病だけでなく発がんのリスクになり得るということを知って、定期的な検査とともに、できるだけ正常値に近づけるよう生活習慣を正していきたいものだ。

久山町第3集団2,603名 40歳以上 1988−2002年 性・年齢調整
82炎症と癌(がん)の関係解明に光 2006/08/21 (HealthDay News )

   慢性炎症と、癌(がん)やアテローム性動脈硬化症のような疾患との化学的な関係について新たな知見が示され、生物化学誌「Nature Chemical Biology」7月号に掲載された。感染が起きると、免疫細胞がその部位に集まり、侵入物を撃退するため特殊な化学物質を多量に分泌する。しかし、この炎症性物質は、感染部位周辺の正常な細胞まで傷つけ、細胞のDNAの損傷は細胞死や突然変異を引き起こし、癌などの疾患を招くことになる。

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、免疫細胞が産生する炎症性物質の一つ、nitorsoperoxycarbonateという物質によるDNA損傷が、DNAらせん上の予想外の部位で生じることを突き止めた。この知見は、DNA損傷が生じる場所についての従来の説に反するもので、炎症の新しい診断・治療法開発につながる可能性があるという。

 MIT生物工学部門教授のPeter Dedon博士は「炎症と疾患との関係を断ち切る新しい薬剤を作るためには、炎症の機序を理解する必要がある」と述べている。
81がん医療におけるチーム医療の重要性を確認 第1回オンコロジーメディアセミナーの話題から 週刊医学界新聞詳細 第2699号 2006年9月18日

 さる7月26日,「第1回オンコロジーメディアセミナー」が東京都千代田区の経団連会館にて行われた。主催のがん医療研修機構(理事長=癌研顧問・塚越茂氏)は,がん医療におけるチーム医療の質の向上,医療過誤の防止等を目的として今年3月に設立された。具体的な事業として年2回のセミナーを開催している。

 「がん医療研修機構発足にあたって」と題して講演を行った塚越氏は,「がんの集学的治療には,チーム医療が必須である」と強調。自身の経験を通して,治療に携わる医療者すべてが知識を共有することが重要と考え,がん医療研修機構を立ち上げた経緯を語った。また,がん化学療法の外来へのシフトに触れ,このことがチーム医療の原動力になったと指摘した。

 次に垣添忠生氏(国立がんセンター)が登壇。垣添氏はがん診療の現状について「診断が正確になり,精密な治療計画が可能になったことで,治療の選択肢が多様化した」と解説。そのうえで,厚労省に設置されたがん対策推進本部や,来年4月に施行されるがん対策基本法,がん診療拠点病院の見直しなどに触れ,今後の具体的課題としてがん登録の充足,禁煙・感染症対策などの一次予防,検診受診率および質の向上といった二次予防,難治がんに対する研究の重要性,がん医療の均てん化などを挙げた。また,垣添氏はがんチーム医療の話題の中で,現在国立がんセンターで行われている薬剤師レジデント制度を紹介。多種多様な抗がん剤の取り扱いに関する知識,技術を持った専門的薬剤師養成の必要性を指摘した。

 西條長宏氏(国立がんセンター東病院)はがん薬物療法について講演。これまで,化学療法は進行がんに対してのみ用いられていたが,現在では局所進行がんや比較的早期のがん,また完全切除例に対しても用いられ,化学療法の重要性は増していると述べた。また抗がん剤は,がん細胞の生物学的特性上,適正量投与しても効果が得られないことが多いが,その薬物耐性を克服する方法として,薬理ゲノミクスの研究から開発された分子標的薬を紹介。抗腫瘍スペクトラムの広い殺細胞性の抗がん剤と,スペクトラムは狭いが標的への効果が高い分子標的薬の併用により効果が期待できると述べた。
80延命の中止・差し控え…医師苦悩、重い裁量  (2006年7月31日 読売新聞)

「一人で判断」46%…本紙調査240病院回答
 回復の見込みのない末期患者に対し、56%の病院が延命措置の中止や差し控えを行っていたとの本紙調査で、終末期医療について明確な指針がないまま、最期を迎えようとしている患者の医療が医師の裁量にゆだねられている実態が浮かび上がった。

適法性の認識
 「装着した人工呼吸器を取り外すことはある。措置を続けることで植物状態の患者をつくってはいけない、と思うから」(関東・公立病院副院長)
 「患者の苦痛を除くのが医療。延命措置が苦痛を与えることもあり、措置の差し控えは問題ない」(東北・公的病院長)
 「後に刑事事件になったり、家族ともめたりするので、呼吸器は絶対に外さない」(北海道・公立病院長)
 240病院が回答した本紙調査では、延命措置の中止・差し控えの是非を巡って、医師たちの意見は大きく割れ、医療現場の混乱ぶりがうかがえた。

 その要因は、延命措置の中止・差し控えの適法性に対する認識の違いにある。「法的に問題がある」「法的に問題はあるが、医療行為としては問題ない」がそれぞれ26%、「法的にも医療行為としても問題ない」20%と回答が分散。「患者によって異なり、問題があるとも、ないとも言えない」という答えも目立った。「法的に問題」とした病院の大半は、延命措置のあり方を規定する法律など統一ルールがないことを根拠に挙げ、ほとんどが「延命措置の中止・差し控えはしていない」とした。「回復が見込めない患者に行う措置に疑問を感じつつも、続けざるを得ない」と悩みを訴える声もあった。

 一方、中止・差し控えを行ったのは、「医療行為として問題なし」とした病院が中心だった。

決定の透明性 
 延命措置を中止する条件などを定めた病院独自の指針を設けているのは、21病院(9%)にとどまり、明確な指針を持たないまま、医師の裁量で措置の中止や差し控えが行われている現状が浮かび上がった。 人工呼吸器の取り外し問題が起きた富山県・射水市民病院は、主治医の外科部長がほぼ独りで取り外しを決めていたとして問題視している。今回の調査でも「医師が単独で決めた」との回答は46%に上った。

 2002〜04年に厚生労働省の終末期医療に関する検討会委員を務めた定山渓病院(札幌市)の中川翼院長は「延命措置を決定する過程の透明性を確保する体制整備が必要だ」と指摘する。 今回の調査でも、射水市民病院の問題を受け、「院内の指針を年内か近いうちに作成する」とした病院は36を数えた。ただ、「国の指針がない中では、独自の指針は作れない」との声も少なくなかった。

 イギリスやドイツ、オランダでは、法律家や倫理学者を交えた院内や地域医師会などの委員会が、延命措置の中止に関する医学的判断や手続きが適正かどうかをチェックしている。 甲斐克則・早稲田大教授(刑法・医事法)は「終末期の問題にも対応できるよう倫理委員会を整備し、積極的に活用すべきだ。一つの病院の倫理委が、地域の他の病院の審査を担当する方法もある」と話す。

意思の確認
 延命措置を巡っては、患者本人や家族の意思をどう反映するかが重要だ。1995年の東海大安楽死事件の判決は、延命措置を中止した医師の刑事責任が問われない条件の一つに、「患者の意思か、家族による患者の意思の推定がある」ことを挙げた。 だが、今回の調査でも、患者の意思をくみ取ることの困難さがうかがえる。

 高齢者が入院する療養型の病院では、多くが認知症などで本人の意思を確認できず、「家族の意思で決めるが、延命措置を望む家族の希望と、回復見込みのない患者の病状との乖離(かいり)の大きさに悩むことはある」(近畿・私立病院長)という。 救急患者が緊急治療で一命をとりとめたものの回復が見込めない場合、関東の公立病院副院長は「措置を中止するかどうかの決断を家族に求めるのは酷。家族との『あうん』の呼吸で決める」と語る。

 独自の指針を持つ病院の約4割は、患者の容体が安定している時に、本人や家族に文書で意向を確認する「事前指示書」などを採用していた。 東海大安楽死事件 東海大学病院(神奈川県)の医師が1991年、末期がん患者に塩化カリウムなどの薬剤を注射し、死亡させた。横浜地裁は医師に殺人罪で有罪判決をくだし、確定した。判決は延命措置の中止が罪に問われない3条件を示した。

終末医療、72%「全国ルール必要」…厚労省、年内めどに指針
 射水市民病院の問題を機に、厚生労働省は年内をめどに、終末期医療に関する指針を作る方針だ。患者や家族の同意の取り方や、倫理委員会など複数の関係者による承認といった、延命措置の中止・差し控えを決める上で必要な手続きを盛り込むことにしている。

 今回の調査で、72%の病院が、終末期医療について社会的合意を得たり、患者・家族に説明したりするため「全国的な統一ルールが必要」と主張したが、その枠組みは、個々の患者の事情などに応じて適切な措置がとれるよう、法制化より緩やかな「指針」を望む声が多かった。 学会レベルでも、日本救急医学会や日本集中治療医学会、全国約2100病院が加盟する全日本病院協会も同様の指針作りを進めている。

ルールなき現場戸惑いくっきり
 今回の調査の分析などに協力した国立保健医療科学院・林謙治次長(厚生労働省の終末期医療に関する研究班長)の話「法的・倫理的な問題を抱えながら、自らの裁量で延命措置の選択をしなくてはならない医療現場の戸惑い、苦悩が読みとれた。それが終末期医療に関する統一ルールを求める声の大きさになったのだろう。ルール作りの大切さとともに、国民が『死』をどう受け止めるか議論する必要を感じた」

79がん治療中だが死を願う  (2006年9月16日 読売新聞)

 40代女性。この春、がんの手術を受け、休職中です。抗がん剤の治療を受けています。 とても良い先生に恵まれ、家族も感謝しています。しかし、病気が治ってきたのはいいのですが、これで私は死ねなくなってしまいました。 20代のころはよく自分で死ぬことを考えていました。家族のことを考えるとできなかったし、今もしません。

 ただ、せっかくなったがんで死ねたらよかったのに、と思ってしまうのです。何で病院へ行ってしまったんだろう。  こんなことは本当は考えてはいけないことだし、言ってはいけないことです。みんな怒り、悲しむ。私は罰当たり。病気で苦しんでいる人たちと、その家族にも申し訳ないと思います。 どなたか、私に何か言ってください。(大阪・M子)

 病気が治らない悩みはよく聞くのですが、病気が治ってしまった悩みというのは珍しい。でも、死ぬより生きることの方がつらい、ということだってあるのだと思います。これはとても深い問題です。  ただ、このお手紙では、なぜ死にたいのか、具体的な事情には一切触れられていない。これはあなたの長く抱える「生きることへの罪の意識」が、簡単な紙上相談などで解消できるものではないことを喝破しておられるからだと思います。ここでは現在の心情にしぼって考えます。

 お手紙から感じることは、過去をのろい他人を恨むという調子が無く、むしろご家族や病気に苦しむ人たちのことを思いやるやさしい心根と、気配りに満ちていることです。これはあなたの大きな特質だと思いますが、今はそれが裏目に出ているのかもしれない。ゆううつに陥り、悲観的な考え方に圧倒されている。それが根元にある死の願望を呼び覚ましている。

 これは「手術の後の気持ちの揺れだ」(また時には、抗がん剤も感情に影響を与えることもある)くらいに考え、少し「病みあがりの自分中心主義」に徹することはできないでしょうか。 (野村 総一郎・精神科医)
78がん医療におけるチーム医療の重要性を確認  第1回オンコロジーメディアセミナーの話題から 週刊医学界新聞  第2699号 2006918

 さる726日,「第1回オンコロジーメディアセミナー」が東京都千代田区の経団連会館にて行われた。主催のがん医療研修機構(理事長=癌研顧問・塚越茂氏)は,がん医療におけるチーム医療の質の向上,医療過誤の防止等を目的として今年3月に設立された。具体的な事業として年2回のセミナーを開催している。

 「がん医療研修機構発足にあたって」と題して講演を行った塚越氏は,「がんの集学的治療には,チーム医療が必須である」と強調。自身の経験を通して,治療に携わる医療者すべてが知識を共有することが重要と考え,がん医療研修機構を立ち上げた経緯を語った。また,がん化学療法の外来へのシフトに触れ,このことがチーム医療の原動力になったと指摘した。

次に垣添忠生氏(国立がんセンター)が登壇。垣添氏はがん診療の現状について「診断が正確になり,精密な治療計画が可能になったことで,治療の選択肢が多様化した」と解説。そのうえで,厚労省に設置されたがん対策推進本部や,来年4月に施行されるがん対策基本法,がん診療拠点病院の見直しなどに触れ,今後の具体的課題としてがん登録の充足,禁煙・感染症対策などの一次予防,検診受診率および質の向上といった二次予防,難治がんに対する研究の重要性,がん医療の均てん化などを挙げた。また,垣添氏はがんチーム医療の話題の中で,現在国立がんセンターで行われている薬剤師レジデント制度を紹介。多種多様な抗がん剤の取り扱いに関する知識,技術を持った専門的薬剤師養成の必要性を指摘した。

 西條長宏氏(国立がんセンター東病院)はがん薬物療法について講演。これまで,化学療法は進行がんに対してのみ用いられていたが,現在では局所進行がんや比較的早期のがん,また完全切除例に対しても用いられ,化学療法の重要性は増していると述べた。また抗がん剤は,がん細胞の生物学的特性上,適正量投与しても効果が得られないことが多いが,その薬物耐性を克服する方法として,薬理ゲノミクスの研究から開発された分子標的薬を紹介。抗腫瘍スペクトラムの広い殺細胞性の抗がん剤と,スペクトラムは狭いが標的への効果が高い分子標的薬の併用により効果が期待できると述べた。

77がん登録:遅れる日本、情報漏れへの懸念強く 制度導入には8割賛成  毎日新聞 2006年9月18日 東京朝刊
 
国民の3人に1人はがんでなくなっている。科学的な根拠に基づいた対策が求められているが、それに役立つのが、罹患(りかん)率や治療成績を集めて分析する「がん登録」制度だ。しかし、今年6月に成立した「がん対策基本法」では、個人情報保護の観点から、国レベルの制度化が見送られた。患者や家族を対象にした東大病院の調査では、8割が導入に賛成する一方、情報漏れを懸念する声も相次いでいる。国内のがん登録の現状と、米国の取り組みを紹介する。【永山悦子】

 がん登録は、がんと診断された患者を把握し、患者数や種類、治療内容や生存率をデータベース化する制度だ。治療法や検診の有効性を分析でき、地域の特性も分かる。 日本では、主に地域がん登録という形で60年代に始まり、現在は34道府県で実施している。

 これまでに、小児がんの一つ、神経芽細胞腫の検診に効果がないことが判明し、公費による実施が中止された▽子宮頸(けい)がん患者の低年齢化が判明し、検診対象年齢が引き下げられた−−などの成果が上がった。最近も、石綿で生じる中皮腫の患者が、現在は70年前後に比べ100倍以上に増えたことが、神奈川や大阪のデータで確認できた。

 祖父江友孝・国立がんセンター情報研究部長は「がんという『敵』の姿を知ってこそ戦える。そのために、登録制度は欠かせない。情報を持たないままの対策は、逆に患者の命を縮める恐れもある」と話す。 だが、各地の取り組みは都道府県の事業で、登録様式は統一されていないため、比較しにくい。厚生労働省は「がん登録は個人情報保護法の適用外」としており、登録に患者本人の同意は必要ないが、情報保護などを理由に協力しない病院も多く、世界と比べ精度も悪い。

 実際、市町村に出された死亡票で初めてがん患者だったと分かるケースが患者全体の2〜3割を占めるという。登録を義務付けている米国では、この割合は5%以下だ。 「世界的に見ても日本の登録制度は不十分だ。がん登録事業のできるだけ早い法制化が必要と認識している」。今月、山形県で開かれた「地域がん登録全国協議会」総会で、総会会長の松田徹・県立がん・生活習慣病センターがん対策部長はこう訴えた。

 では、患者や家族、医療関係者らは、がん登録制度についてどう考えているのか。東大病院の中川恵一・緩和ケア診療部長は今年7月、同病院を受診した患者や家族、がんに関する講演会の出席者、医療関係者ら計270人にアンケートした。 がん登録制度に「賛成する」と答えた人は82・2%に上った。「反対」は0・7%、「どちらともいえない」が14・4%だった。ただし、登録する際に患者本人の許可(同意)が「不要」と答えた人は44・4%にとどまり、「必要」が23・7%、「どちらともいえない」が30・3%だった。

 許可が必要と答えた人からは、「本人は(病気を)知りたくない、家族は知らせたくないなど、さまざまな事情がある」(患者・77歳男性)▽「情報の管理に絶対はない」(医療関係者・53歳男性)−−など、がん告知との関係や情報漏れを懸念する意見が相次いだ。

 中川さんによると、これまで登録情報が外部へ漏れたり、本人に登録内容が知らされたことはない。「国民にがん登録を受け入れる素地があることは推察できた。患者の不安を解消するため、医師は患者との信頼関係を築き、制度の内容と意義を正しく伝える努力をすべきだ」と話す。

 ◇法制化の米では死亡率減少−−ゴールドワイン・ペンシルベニア大教授に聞く
 米国のがん登録システムの約4割を運営する民間企業「IMPAC」社の副社長を兼任するジョエル・ゴールドワイン・ペンシルベニア大教授(放射線科)に米の取り組みを聞いた。
 −−米国でがん登録が広がったのは、なぜか
 1926年にエール大でがん患者の登録が始まり、71年にニクソン大統領の号令で国家プロジェクトに昇格、その後法制化された。登録データを活用した治療や予防で、米国では92年から罹患率や死亡率が減っている。

 −−IMPACの役割は
 登録データの集め方は標準化する必要がある。バラバラにデータを取っても、比較できない。IMPACは、そうした登録システムを作り、病院や各州に提供している。
 −−日本では、個人情報保護の観点から登録制度を歓迎しない声もある
 米では皆が情報を共有し、最適な治療方法を開発、選択するのが当然との雰囲気がある。無駄な治療を減らし医療費の節約にもなる。世界では、ウガンダががん登録の先進国とされる一方、日本は後進国とみなされている。

76がん・小児など国立6センター、医療政策“司令塔”に  (2006年9月13日 読売新聞)

 厚生労働省は、国立がんセンターなど全国6か所の国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)を、2010年度に独立行政法人化するのを機に、政策提言型の医療拠点とする改革案をまとめた。 先駆的な治療法を開発する従来の役割に加え、終末期、在宅医療など地域と連携した医療システム整備の推進役としての機能を強化する。センターを司令塔に、がん、心臓病、小児、高齢者医療などの政策を具体化させる狙いで、13日、6センター長を集め、課題の検討に入った。

 がん、小児、高齢者医療などの中核機関である各センターは「病院機能は充実していても、病気の原因解明や治療法の実用化は苦手」「患者には『良い病院』の一つという印象しかない」などの問題が指摘されてきた。

 厚労省は、終末期を含めたがん医療や、24時間体制の在宅医療の充実、小児科・産婦人科医不足の解消などを迫られている。その際、がんの場合なら、痛みの治療や、病院からホスピス、在宅ケアへの移行の見極めなど、医療現場の実態に即した「診療モデル」づくりが必要になる。この役割を、医療現場に精通したスタッフのいる国立高度専門医療センターに求める。

 同省は、〈1〉センター長が国の政策立案に参画する〈2〉厚労相が、緊急性の高い病気の対策実施などをセンターに命令・要求できる体制にする〈3〉大学、研究機関との人的交流を進める――などの改革案を作成した。 センターには今後、各分野で全国の主要医療機関とネットワークを結び、診療モデルを確立して全国に普及させたり、地域で医療機関や開業医、関連施設、行政などの連携が進むよう情報を収集、提供したりする役割が期待される。

[解説]行政のノウハウ不足補完
 厚労省がまとめた国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)の改革案は、医療提供体制を国民の目に分かりやすくするものだ。
 がんセンター(1962年開設)、循環器病センター(77年開設)など、初期に設立されたセンターは、診療、研究、教育の分野で医療界をリードしてきた。その後、社会は少子高齢化時代を迎え、センターの守備範囲は単なる病気の治療・研究から医療システムの構築まで広がったが、「地域にある権威ある病院のイメージ」との評価もある。

 一方、今年の医療法改正で、都道府県が質の高い医療体制を整えるため、医療機関の機能分担などを自ら策定する「医療計画」で示すことになったが、「設計図」を描く行政側も地域の医療機関側も情報やノウハウ不足にあえいでいる。国全体を視野に入れた医療側の「かじ取り役」に、ナショナルセンターは最もふさわしい。ナショナルセンターが誰のため、何のためにあるのか――国民が注視すべき時だ。(医療情報部 鈴木敦秋)

75ガンになったらインターネットでサバイバル【Part.1】  2006年9月6日 水曜日 埴岡 健一
ガン患者・家族1000万人時代、“情報”が生死や快/不快を分ける

 9月は「がん征圧月間」だ。ガンは40歳台以降の第1の死因。日本人の2人に1人はガンにかかり、3人に1人はガンで死ぬ。毎年新たにガンと診断されるのは約60万人。ガン経験者(治療中、治癒したと考えられる人の合計)は、300万人は存在すると推定される。 ということは、その家族を含めると“ガンに影響されている人”は1000万人規模になる。40歳代の働きざかりでも、会社の同期などにガンになった知人がいる場合も珍しくない。70歳代の親がいれば、親がガン患者であるのはごく普通のことと言っていい。

ガン診療にみる「格差」
乳ガン治療では半分近くが疑問符
 「ガン患者・家族1000万人時代」であるにもかかわらず、ガンの診療体制やガン対処術の開発は、日本では大きく遅れており、“ガン難民”という言葉が広がっている(図1)。これは、ガン患者が適切な治療を受ける治療施設や医師を見つけることができない状況を指す。

図1 “がん難民”にならないように情報武装したい

 ガンが再発したときに、医師が簡単にあきらめてしまって、最先端の抗ガン剤治療を試みてくれない。治癒の可能性があるうちは熱心だった医師が、ガンが治らない状態になると、とたんに十分なケアをしてくれなくなる。ガンと診断されたが、医師が標準的な治療を示してくれない。――こうした状況が今の日本ではたくさん起こっているのが現実だ。

 また、ガン診療においても「格差」が大きな問題となっている。医療機関によって治療成績に大きな差があることが分かってきたのだ。ガンの治療成績の尺度には、5年生存率が使われることが多いが、例えば、厚生労働省研究班が全国がん(成人病)センター協議会加盟の30病院を対象とした調査(2006年3月)によると、肺ガンの成績が最高の施設では平均5年生存率が44%であったのに対して、最低の施設では18%だった。

 胃ガンでも、5年生存率が42%から70%まで広く分布した(参考記事:「リスク調整しても癌生存率に大きな格差」)。 患者にとっては、行く病院によって生存率に2倍の差があると思うと、とても平穏な気持ちではいられない。しかも病院別の成績は一般に明らかにされていないから、なおさらだ。

 病院によってなされる治療がバラついていることも分かっている。国立がんセンター東病院に他院から転院してきた患者を調べたところ、それまでの治療が正しかったといえるのは半数程度に過ぎなかった。これは同病院の向井博文医師が行った調査。乳ガン治療で転院してきた患者について、学会が作った「乳癌診療ガイドライン」にのっとった治療を受けていたかどうかを見たものだ。

 「きわめて標準的な治療」、「標準として許容範囲内の治療」を受けた患者が合計43%、「標準よりかなり外れる治療」「害をもたらす可能性がある治療」を受けた患者が合計45%だった。つまり、半分近くは疑問符が付く治療をされているのだ。 さらには、ガンの治療は日進月歩だ。標準治療がその人の最適治療とは必ずしも言えない。標準治療はいわば60点の治療で、患者一人ひとりにとっては、標準治療より生存チャンスを増やす治療が見つかることもある。

 例えば、次々と開発される抗がん剤に関して、治験に参加するという選択肢もあるが、患者にとってそうした選択肢があることや参加の方法も知らされることは少ない。

偏った情報で判断を誤らないように
 では、患者はどうやって身を守ればいいのだろう。現状では、自分で情報を集めて自己防衛するしかない。あるいは家族や知人などにそれをやってもらうことだ。それでは、どこに役立つ情報があるのだろうか。

 6月に行われた医療法の改正では、地方自治体や病院が医療施設を患者が選択できる情報を整備し、社会一般に対して提供していくこととされた。しかし、現在ではまだ患者が病院を選択するために使えるような情報は少ない。医療に関する情報はインターネット上に氾濫しているものの、その内容は玉石混交で、かつ情報がばらばらに存在し、それを患者が判断のために簡単に使えるようにはなっていないのだ。

 地方自治体や病院がこうした情報を整備するまでには、まだまだ時間がかかりそうで、現在は、あちこち情報を探し回るしかないのが実情だ。 患者になると欲しい情報は多様だし、1つの判断や行動をするためにたくさんの情報を収集しなければならない。例えば病院を選ぶ場合、まず自分のガンの標準的治療を知った上で、自分のガンの種類や進行度について成績が良い病院を選ぶ必要がある。

ガン患者・家族1000万人時代、“情報”が生死や快/不快を分ける
2006年9月6日 水曜日 埴岡 健一
ガン インターネット 医療 治療
 また、新しい治療の臨床試験の実施状況も目配りした方がいいこともある。患者団体が口コミでよい医師を知っているときもあるから、患者支援をしてくれる患者団体も知っておきたい。ところが、こうした情報をワンストップ(1カ所)で集められる場所がない。
hyo2図2 5種類の情報をうまく集めることが肝心

 情報の海におぼれないためには、多様な情報を頭の中で整理しておくことが大切だ。図2のように、患者に必要な情報は、
(1)闘病哲学
(2)病気・治療に関する情報
(3)医師・病院の選択情報
(4)闘病ノウハウ
(5)相談窓口・患者仲間
――の5つに分類できる。

 そして、納得できる闘病をするには、これらすべての情報が必要だ。例えば、(2)に当たる診療ガイドラインをいくら読んでも病院選択はできない。「がんとの向き合い方」や「がんについて調べる際のメリット・デメリット」など(1)に分類される闘病哲学を会得していないと、(3)の治療施設選択のための情報を集めても、いつまでも迷ったり、ときには医師への疑心暗鬼を増長させるばかりの結果になりかねない。

 こうした5種類の情報に関して、次ページに約100項目の「サイト集」(リンク)をあげておく。上記のことを意識しながら活用していただきたい。
(埴岡 健一=日経メディカル編集委員)

74「がん」 次への課題(1)   (08/28)産経新聞

 ■治療法を探す「難民」  ■情報で変わる余命
 治療法や薬が日進月歩で開発され、がんは決して、死に直結する病ではなくなりました。しかし、医師から「打つ手はない」と言われる患者さんも…。そう言われながらも、治療法を探し、生きながらえる患者さんもいます。数々の病院を訪ね歩く姿から「がん難民」ともいわれますが、信頼できる情報がなかなか得られないのが最大の原因。「がん対策基本法」が成立し、国が秋から始めるがん情報提供ネットワークに期待がかかっています。(柳原一哉)

 兵庫県三木市の元高校教諭、橋本榮介さん(67)=がんを語る有志の会世話人代表=は、医師から「余命半年」と言われながら、がん発症から16年も生きながらえてきた。「医者から『あかん』って言われても、あきらめたらあかん。治療法はある」と語気を強める。橋本さんに異変が起きたのは昭和63年。「教壇でチョークを持つ手が震えたのが最初の自覚症状だった」という。B型肝炎の発症だった。もともとウイルスの感染者。肝炎を監視していた病院で2年後、「肝臓に小豆よりも大きいが、大豆よりも小さい」がんが発見され、すぐに手術を受けた。

 ところが7年後に胸壁、その2年後の退職した年に肺への多発転移が見つかり、医師は家族に「余命半年。治療を打ち切る」と宣告した。 だが、「余生はワゴン車を買い、北上するサクラ前線を追いかける全国縦断旅行をする」と楽しそうに話す橋本さんの横顔を見るに、家族はとても告知に踏み切る勇気が出なかったという。それでも、国立がんセンター中央病院(東京・築地)で肝臓がん治療「FMP療法」の治験が行われることを知った家族が思いきって、橋本さんに事態を告げ、治療を勧めた。

 「もう死ぬのかと思った」。橋本さんは告知と余命期間を同時に聞いたショックをそう振り返る。平成11年末にこの治験に参加。その結果、「肺がきれいになった。入院中に亡くなるがん患者も多いのに、なんとか生き延びられた。あきらめないでよかった」と橋本さんはいう。このとき、病院や治療法で結果が変わることを身を持って知ったという。
                  
 だが、FMP療法の効果は持続しなかった。「1年半後にはホスピスを紹介された。そのときから自分に合う治療法や手術を探して回る『がん難民』になった」と橋本さんは打ち明ける。

 本を読み、医師に話を聞くために全国数カ所の病院を訪ねてまわる。妻からは「診察券を集めるのが趣味では」といわれるほどだったが、ようやく2カ所の病院で免疫療法など、自分に合う治療を受けた。

 その結果、平成2年のがん発見以来、「もうホスピスしかない」とされながら、生命を途絶えさせることはなかった。 「孫までいる自分が命にしがみついていいのかとさいなまれたこともあった」と橋本さんは率直に明かす。だが、「がんの治療は日進月歩だから、探せばどこかで最適な治療が受けられる。『あきらめないでよかった』という結果が得られる」と話す。
                
 がんにはおおよその標準治療はあるが、再発後の治療では、専門家の意見も分かれる。保険適用の治療でも、一つの医療機関ですべてが行われるわけではないし、認可前の薬を使った「治験」は、参加する病院が限られる。だから、A病院で「治療法がない」と言われても、B病院では手だてが残されていることもある。 自分に合うかもしれない治療がどこで行われているかを知り、うまくタイミングや治療法が合えば、可能性が広がる。

 しかし世にあふれるがん情報は玉石混交で、科学的根拠に乏しいものも目立つ。橋本さんは、「医師に見放されたがん患者の中には効果不明の健康食品類に走ってしまう人もいる。情報の面で彼らをサポートする仕組みが要る」と訴える。 患者らの後押しで今年成立した「がん対策基本法」には情報整備も盛り込まれた。厚労省は全国に177ある「がん診療連携拠点病院」に相談支援センターを設置。メディカルソーシャルワーカーらが患者の個別具体的な相談に応じる。

 さらに10月には、国立がんセンター内に「がん対策情報センター」が開設される。部位別のがん症状、診断、治療法に加え、▽先進的な治療法▽主ながん検査法▽抗がん剤の一覧表などが掲載される。緩和ケア病棟のある病院リストなどの病院情報や、部位別・年齢別のがんの死亡率など統計情報も網羅し、がん情報の一大拠点を目指す。 患者が本当に知りたい情報を得るベースとなるかどうか。橋本さんは「患者の視点で本当に必要な情報がなければならない」と期待を込めている。
73 意思確認、不透明さ残す…富山の延命中止問題 (2006326  読売新聞
    病院「文書はない」終末医療国の基準、未整備

 外科部長の判断は適切だったのか――。富山県射水(いみず)市の市民病院で発覚した延命措置中止問題。外科部長は、家族の同意を得た正当な行為としているが、病院幹部は倫理的に問題があったとして警察に届け出た。医師が患者の死期を早めることはどんな場合に許されるのか。そのルールはあいまいなままだ。(富山支局 福島利之、社会部 小林月照、科学部 高田真之)  

 「(家族に)直接、言葉で確認した。文書は残っていなかった」。25日、記者会見した射水市民病院の麻野井英次院長は、問題の外科部長は、7人の患者から人工呼吸器を外す際、家族の同意を口頭で得たと話していることを明らかにした。同意書などは残っておらず、カルテには「家族のご希望」との記載があるだけという。

 問題発覚後の家族への再確認も病院ではできていない。このため、意識のない患者本人の意思を確認したのか否かだけでなく、家族に患者の状態をどう説明し同意を得たのかも不明だ。

 同病院には、終末期医療についての規則はなく、呼吸器を外すことについては、外科部長が責任者として最終的に判断を下したという。麻野井院長は「患者本人の意思が明確だったのかという点と、(外科部長が)ほかの医師らに相談する手続きを踏まなかったのは問題だった」と語る。この点は、今後の捜査などでもポイントになりそうだ。

 医師による安楽死が裁判所によって初めて「殺人」と認定されたのは、1991年4月に起きた「東海大安楽死事件」だ。同事件で横浜地裁は95年3月、医師の「治療行為の中止」「積極的安楽死」が許されるには、それを望む患者の意思表示が不可欠だと指摘している。

 判決はまず、医師による安楽死行為を、▽薬剤投与などで意図的に死を招く「積極的安楽死」▽人工呼吸器を外すなど延命治療を中止する「消極的安楽死」――などに分類。このうち積極的安楽死が許されるためには、〈1〉患者に耐え難い肉体的苦痛がある〈2〉死が避けられず死期が迫っている〈3〉苦痛を除去、緩和する方法がない〈4〉生命の短縮を承諾する患者の明らかな意思表示がある――の4要件を満たす必要があるとした。

 一方、消極的安楽死の要件は、〈1〉患者に回復の見込みがなく死が避けられない〈2〉治療の中止を求める患者の意思表示がある――などを挙げた。患者本人の意思表示がない場合でも、その意思が推定できるような家族の意思表示があればよいとした。

 ただ、司法判断を除くと、日本では治る見込みがない患者の治療を中止する場合の明確な基準は存在しない。このため、厚生労働省の研究班は、延命治療のあり方や患者の意思を確認する終末期医療のガイドライン作成に向け、2004年度から検討を重ね、07年度をめどに結論を出す方針だ。同省の「終末期医療に関する調査」(03年)によると、自分が終末期の患者になった場合、一般国民の約74%が「単なる延命医療はやめてほしい」などと回答している。しかし、この調査でも積極的安楽死を望む声は14%にとどまっていた。

 延命治療を行わない尊厳死の法制化を巡っては、衆・参両院の有志66人が昨年2月、超党派の国会議員連盟(会長・中山太郎元外相)を結成した。国会提出に向けてまとめた骨子案には、15歳以上の患者が「助かる見込みがなく、死期が切迫していると認められる状態」になった時、延命措置拒否を表明できると規定。これを受けて、医師が延命措置をしなくても、法的責任を問われないとしている。

欧州安楽死容認も
 欧州では1990年代以降、「望まない延命は人権侵害」との意識が広がり、治る見込みのない患者が「安楽死権」を求めて政府を提訴したことなどを受け、安楽死を法制化する国が相次いだ。2002年には、オランダとベルギーが相次いで安楽死法を施行。ともに患者の意思表示を不可欠とし、第三者機関による監視体制を整備したのが特徴だ。

 オランダ法は、〈1〉患者の自発的要請〈2〉患者の苦痛は治癒不可能〈3〉医師がほかの医師と相談――などの要件を満たす場合、安楽死を認める。医師は決定に至るまでの経緯を書面に記入。政府任命の法律家や医師で構成する「評価委員会」が内容を審査し、要件違反があった場合、送検する。法律上、安楽死と呼ばれるのは、患者の要請を受けた医師が致死薬を処方し、即死させる場合で、毎年約2000人が安楽死している。

 ベルギー法もオランダとほぼ同じ内容で、患者が家族に相談する機会を保証している点で異なる。フランスでは昨年、「尊厳死法」が施行され、患者の意識がない場合、医師が家族や近親者と相談し、延命措置を中止することが認められた。 一方、米国では97年、オレゴン州で安楽死法が施行されたが、国政レベルの法制化にはキリスト教右派の反対が強い。フロリダ州では昨年春、15年間植物状態の女性の尊厳死の是非をめぐる家族の対立が、政治問題に発展した。(エルサレム支局 三井美奈)

 患者の心 くみ取る仕組みを
 自分の最期をどう迎えるか。その答えは、患者の人生観や宗教観、死生観などによって大きく異なり、画一化はできない。医療現場で最も大切なのは、患者がどういう希望を持っているかをきちんとくみ取ることだ。今回の場合、これが不徹底だったとみられるため、混乱と不信を招いている。医療が高度化し、延命技術が進む中、「死に方」についての患者の意思はますます多様化するだろう。患者中心の医療を実践するためにも、国や医療界は終末期医療の指針を、各病院は患者の意思確認ルールを早急に作らなければならない。(社会部 木下敦子)

 安楽死 終末期の患者の苦痛を取り除くため、医師などが死期を早めること。致死薬を使うなどの積極的安楽死と、延命措置をやめる消極的安楽死がある。明確な定義はないが、患者が事前に延命治療を拒否する意思を文書などで示す場合は「尊厳死」と呼ばれる。

72重粒子線がん治療施設を支援へ 中日新聞2006年5月28日

愛知県が大府に建設計画
 最先端のがん治療手段として注目される「重粒子線」を利用した民間治療施設の建設計画について、愛知県は具体化に向け支援をしていく方針を固めた。建設先は同県大府市の見込み。こうした治療施設を民間が経営するのは国内では例がなく、県は産学官の連携を視野に支援。中部国際空港(同県常滑市)に近い地の利を生かし、海外からの利用も見込んでいる。

 治療施設は、名古屋大医学部の佐久間貞行名誉教授を中心とする医療法人が、あいち健康の森公園や国立長寿医療センターに近い大府市内に170億円で建設を計画中。用地2ヘクタールを買収する準備を進めており、2010年の一部開業を目指す。

 重粒子線は炭素などの粒子を光速近くまで加速させたもので、直径約40メートルの機器の中で粒子を回転して加速させた後、がん病巣に照射する。大がかりな装置が必要で、現在、国内には国の施設が千葉県に、県立の施設が兵庫県にあるだけ。

 治療は入院を要しない日帰りで、機器の準備時間を含めた治療時間は1回の通院当たり1−2時間を想定。年間で1350人の利用を見込む。

 県では、がん対策の医療計画で高度な治療施設の集積を目指していることから佐久間名誉教授らの計画に着目。実現を後押しするため、専門医療機器の製造技術などを持つ民間の力と、最先端の治療技術を持つ大学医学部の連携を視野に、ノウハウを持った各機関の橋渡しなどを積極的に支援していく考えだ。
71癌(がん)の遺伝子治療に成功 NIKKEI NET[2006年8月31日/HealthDayNews]

 遺伝子治療によって実際に癌(がん)を食い止めることができることが初めて示された。メラノーマ(黒色腫)の患者2人で18カ月にわたる寛解がみられたという米国立癌研究所(NCI)のSteven Rosenberg博士らの報告が、米科学誌「Science」オンライン版に8月31日掲載された。
 今回の研究は、癌などの異質な細胞を検知し破壊する働きをもつTリンパ球と呼ばれる白血球の能力を高めることに焦点を当てたもの。研究グループは、進行した転移性メラノーマ患者17人から正常なT細胞を採取し、遺伝子操作によりメラノーマ細胞の認識を助ける受容体を持たせ、その後、それぞれの患者の血液中に戻した。この結果、17人中2人がすぐに寛解に達し、1年以上経った現在も無病状態が続いているという。

 他の患者については思わしい効果は得られなかったものの、多くは遺伝子操作されたT細胞が免疫システム内に長く残り、少なくとも処置後2カ月の時点で血液中のリンパ球の10%以上を占めていた。治療効果がみられなかった理由は、今回の方法にはまだ粗さが残っており、使用する受容体やそれを細胞に組み入れる方法などが最適とはいえないものだったためと、Rosenberg博士は説明している。

 数カ月以内には、肺癌、乳癌、結腸癌などの認識に適した受容体を用いて、臨床試験を開始する予定だという。今後の研究は何年にもわたる長い道のりになると思われ、今回の成果はその始まりにすぎないが、それでも数十年の苦労が報われる功績で、患者に希望を与えるものだと専門家は述べている。

原文/HealthDayNews
70脊髄炎 医師の関心低く  (2006年7月21日 読売新聞)

医師や患者と電子メールで情報交換する石母田さん夫妻(さいたま市の自宅で) 普通に歩いているつもりなのに、足が上がらず、何度もつまずいてしまう。さいたま市の精密部品加工業、石母田衆(いしもだしゅう)さん(60)は、10年ほど前から、そんな症状に悩まされていた。

 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV―1)が引き起こす脊髄(せきずい)炎(HAM)の典型的症状で、背骨の神経が徐々に破壊され、歩行困難や寝たきりになることもある深刻な病だったが、長く正しい診断がつかなかった。 症状が出て間もなく、整形外科でエックス線検査や血液検査を受けた。異常は見付からず、医師の見立ては「老化現象」。その後も3年間、週に1度通院し、腰に電気をあてる治療を続けたが、足の感覚が鈍くなり、わずかな段差で転倒するなど、状態は悪化した。

 1998年には、神奈川県に住む弟が成人T細胞白血病(ATL)を発症し、5年後に亡くなった。弟の発病時、石母田さんも血液内科で検査を受け、HTLV―1の感染が分かった。「めったに発病しませんから」。医師に足の症状を伝えたが、無反応だった。ウイルス感染に詳しい血液内科医ですら、脊髄炎のことを知らなかったのだ。 病名が分かったのは2002年。犬の散歩中に転び、左足に亀裂骨折とじん帯断裂のけがを負った。だが、痛みを感じない。別の整形外科で「脊髄に問題があるのでは」と指摘され、紹介先の神経内科でやっと真実にたどり着いた。

 石母田さんは「医師に知識がなく、間違った治療を続ける患者が少なくない。整形外科や血液内科も、この病気にもっと関心を持ってほしい」と訴える。
 脊髄の破壊が進むと足の感覚まひやしびれ、歩行障害などに加え、高い頻度で尿もれや排尿困難が起こる。患者は約1500人とされるが、正確に診断できる医師は少なく、実際はその何倍もいると見られる。治療薬は研究途上だが、脊髄の炎症を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)の服用やインターフェロンαの注射で、進行をある程度食い止められる。

 聖マリアンナ医大(川崎市)リウマチ・膠原(こうげん)病・アレルギー内科に籍を置く山野嘉久さんは「神経の破壊は、発症から5年間に最も進む。この時期の適切な薬物治療で、悪化のカーブを緩やかにすることが肝心」と話す。だが患者の多くは、正確な診断が得られず、整形外科の治療などで無駄に費やすケースが多い。さらに、早期に診断されても、薬の選択などに欠かせないウイルス量の測定は、鹿児島大や東京大など数か所しかできず、全国的には手薄な状態だ。

 HTLV―1関連脊髄炎(HAM) 体内の免疫がHTLV―1に過剰に反応し、背骨の神経を徐々に壊してしまう病気。1986年に元鹿児島大教授の井形昭弘さんらが発見した。女性に多く、40歳代〜50歳代での発症が目立つ。
69終末医療初の指針、厚労省が原案  (2006年9月15日3時3分 読売新聞)

 厚生労働省は14日、がんなどで回復の見込みがない終末期の患者に対する治療を中止する際のガイドライン(指針)原案をまとめた。
 治療方針の決定は、患者の意思を踏まえて、医療チームが行い、患者と合意した内容を文書化する。患者の意思が確認できない時は、家族の助言などから最善の治療を選択する。また、患者らと医療チームの話し合いで、合意に至らなかった場合などは、別途、委員会を設置し、検討することが必要としている。終末期医療をめぐって国が指針を作るのは初めて。

 厚労省は、原案を同省のホームページ上で公表し、国民から幅広く意見を募る。さらに有識者による検討会を設置し、年内をメドに成案をまとめる方針だ。
 終末期医療に関するガイドラインは、今年3月に富山県射水市の市民病院で、末期がん患者らの人工呼吸器を取り外し、死亡させた問題が発覚したのを受け、川崎厚労相が医療現場の混乱などを避けるため、作成の方針を打ち出していた。

 原案は、まず、主治医の独断を回避するため、基本的な終末期医療のあり方として、主治医以外に看護師なども含めた多くの専門職からなる医療チームが、慎重に対処すべきだとした。どのような場合でも、「積極的安楽死」や自殺ほう助となるような行為は医療として認められないと明言。その上で、終末期の患者について延命治療などを開始したり、中止したりするなどの治療方針を決める際、〈1〉患者の意思が確認できる〈2〉意思が確認できない――のケースについて必要な手続きを示した。

 〈1〉の場合は、医療チームの十分な説明に基づき、患者本人が意思を示した上で、主治医などと話し合い、その合意内容を文書にまとめるとした。文書作成後、時間が経過したり、病状の変化があったりした場合は意思を再確認することも求めた。 一方、〈2〉の場合は、家族の話から、元気だったころの患者の意思を推定する。家族がいなかったり、家族間で判断が割れる場合は医療チームが判断する。

 いずれの場合も、医療チーム内で意見が割れたり、患者と合意できない場合は、複数の専門職で構成する委員会をもうけ、治療方針を検討・助言させるとしている。 今年5〜6月、読売新聞社が全国の病院を対象にした調査で、72%が終末期医療に関する全国的なルールが必要と回答し、6割が国などの指針を求めていた。
68 多職種チームによる介入が重要  第11回日本緩和医療学会開催  週刊医学界新聞 第2692号 2006年7月24日

 さる6月23−24日,神戸国際展示場(神戸市)において内布敦子会長(兵庫県立看護大)のもと,第11回日本緩和医療学会が開催された。今回初めて看護職から会長が選ばれ,学会の内容も看護の特色を生かしたプログラムが組まれた。

 「ケアのパワー」と題した内布会長の講演では,緩和医療現場のパワーレスネスについて,患者個人が大切にしていることを大切にできない状況,緩和医療の理念が大切にされない状況から起きると指摘した。またケアにおけるパワーの種類について(1)統合的ケアリング,(2)代弁的パワー,(3)治癒的パワー,(4)参画的・肯定的パワー,(5)問題解決のパワー,などを提示した。

 そしてケアのパワーを生みだすには(1)パワーとパワーレスネスを理解し,意識化する,(2)パワーの基盤を作るために自分自身とスタッフ,そして患者を信じ,双方の価値を点検する,(3)双方の枠をはずし,体験世界を共有する,(4)ケアの技術を身につける,というステップがあると述べた。

チーム医療のメリット
 パネルディスカッション「化学療法の適応と限界」は,江口研二(東海大),小松浩子(聖路加看護大)の両氏が座長を務めて行われた。はじめに佐々木康網氏(埼玉医大)は,化学療法は従来一律に抗がん剤を投与していたのに対し,現在は血中濃度を至適化することにより副作用を軽減する試みや,がん細胞の特性を利用した抗がん剤の選択など個別化が進んだ現状を提示。そして現状を踏まえ,がん化学療法の真の到達点は「治癒,術後の再発予防,延命と症状緩和」にあると指摘した。課題として標準的化学療法の確立を挙げ,時代とともに更新され,より最適なものとしていくことを考える必要があると述べた。最後に「がん化学療法と緩和医療は表裏一体であり,緩和医療医,精神腫瘍医なども加わったがん治療チームの構築が必要」とまとめた。
 外来化学療法における緩和ケアについて松岡順治氏(岡山大)が,氏の病院における取り組みを紹介。外来時に看護師が患者に副作用や体調などの看護診断を行い,必要な場合には制吐剤などの追加増量を医師に連絡。医師は検査後にクリニカルパスの基準に従い薬剤をオーダー。そして薬剤師が医師の処方を確認し照会することにより,投薬が適正か確認している。また治療だけではなく,経済的な相談をソーシャルワーカーが担当することで,患者の心理的負担を軽減できるなど,多職種により取り組むことのメリットを説明した。

 本山清美氏(静岡県立静岡がんセンター)は,患者と医療者の化学療法の適応と限界のずれについて口演。治療効果が見られず医療者が治療は限界だと判断しても,患者が治療効果への期待や病状を受け止められないなどの理由から,治療の継続を希望するといったずれが生じると説明。患者・医療者間のずれを最小限にするために,(1)患者と家族の思いを理解する,(2)多職種で情報を共有し患者にとって最善の選択を検討する,(3)現実を受容し次のステップへの移行を支援する,(4)症状マネジメントと精神面のサポートを行うことが必要と強調した。また,患者が治療の限界をend pointととらえないように,治療前からBSC(best supportive care)の紹介も考える必要があるのではないかと付け加えた。

■患者を中心とした多職種の関与
 パネルディスカッション「ケアをつなぐ」(座長=愛知県立がんセンター愛知病院・渡辺正氏,横浜市民病院・小迫富美恵氏)では,最初に目黒則男氏(大阪府立成人病センター)が自身の経験をもとに,「チーム内でスタッフ各自が治療の方向性などの情報を迅速に把握し,全員で共有することが大切」と強調した。また情報をチーム内に留めず,院内・地域といったより広範な共有,連携が必要であると述べた。
 緩和ケアにおける望ましいチームワークとして「専門性と限界を認め合う成熟した人間関係と迅速な情報交換」を挙げ,(1)担当医・担当看護師を決める,(2)専用の経過用紙を用いる,(3)メールを用いメンバー全員が情報を共有,(4)介入の度合いは主治医と相談する,など活動の実例を示した。最後に症例検討や講演会,院内がん専門看護師への教育などの啓蒙活動を継続して行うことが重要と述べた。

 「緩和ケアチームナースが担うケアの橋渡し」と題し,梅田恵氏(昭和大)が口演。緩和ケアチームの活動として,(1)プライマリ・ケアの一部としての緩和ケア,(2)専門家の介入が必要な緩和ケア,(3)地域リソースの連携の必要な緩和ケアへの介入を挙げた。コンサルテーションすることによる橋渡しの効果は,病院全体に対しては,(1)チーム医療の推進,(2)プライマリ・ケアの充実,(3)急性期医療と緩和ケアの融合。またスタッフに対しては,(1)複雑な状況の理解,(2)ケースへの積極性,(3)専門性の向上などを列挙。最後に地域連携の問題点として,在宅医療では薬剤供給の困難さや家族の負担,往診医と訪問看護・介護支援の連携など,プライマリ・ケアユニット(PCU)では,PCUに対するネガティブな印象や対応の格差,病状説明の不足などを指摘した。

 篠道弘氏(静岡県立静岡がんセンター)は薬剤師のかかわりとして,(1)処方への参画,(2)患者・家族への説明やスタッフ教育,(3)電子カルテ上のツールの作成,(4)緩和ケアチームへの橋渡し,を挙げた。特に処方への参画については,的確なオピオイドローテーションのタイミング,副作用対策薬の使用,同一薬効の際に低コスト薬剤の提案など多数に及んでいると述べた。また診療報酬上の条件として,「薬剤師の参加が算定要件となっていないこと。緩和ケアに習熟した薬剤師を養成するための教育・研修システムが未整備であること。緩和ケアに携わっている薬剤師が意見交換をできる環境が少ないこと」を薬剤師に関する体制・制度上の問題点として指摘した。

 田村里子氏(東札幌病院)がソーシャルワーカーの役割として,(1)第三者的立場から患者と家族の気持ちを医療者につなぐ,(2)急性期医療の対象としての患者家族の意識を緩和ケアへつなぐ,(3)医療機関内の緩和ケアを地域につなぐ,の3点を挙げた。そして最後に有機的な医療チームアプローチのために必要なものとして,(1)互いの専門性に対する理解と尊重,(2)自己の専門性の向上,(3)メンバーの一員としての創造性の活性化,(4)共通言語の獲得と医療チームカンファレンスの重要性,を強調し壇を降りた。
67膵がん、血液で早期診断へ 1滴で精度90%以上  朝日新聞2006年09月06日08時06分

国立がんセンター中央病院での各種がんの5年生存率(男性)の推移
 国立がんセンター研究所化学療法部(東京都)の山田哲司部長と本田一文室長のグループが、患者から採った1滴の血液で、膵(すい)がんの有無を診断する方法を開発した。膵がんの有効な早期診断法はなかったが、90%以上の精度で見つけることができるという。山田部長が主任研究員を務める厚生労働省研究班として今年度、国内6施設で協力し、より精度を上げる技術開発にかかる。3年後をめどに人間ドックなどでの応用をめざす。

 山田部長によると、日本では、膵がんで年間2万2000人が死亡。がんの死因の第5位で、がん全体の約7%を占める。しかも最近20年間で膵がんは2.5倍と急増する傾向にある。初期には身体症状が出にくいため早期診断が難しく、日本膵臓学会の集計では多くがステージ3、4期といった進行した状態で見つかる。このため5年生存率は、国立がんセンター中央病院の男性患者の場合でも、胃がんをはじめ50%を超すがんが多い中で、膵がんは62〜66年に入院した患者のデータでは2.7%、97〜99年の患者でも4.2%と低い状態が続いている。

 山田部長らは、膵がん患者と健康な人の計142人の血液から、患者に特異的に増減するたんぱく質を分析。4種類のたんぱく質を調べる方法で、膵がんがあるかないかが判断できることを突き止めた。この方法で別の患者78人のデータを解析したところ、91%の正しさで診断できた。

 膵がん患者に特異的に表れる抗体(腫瘍(しゅよう)マーカー)で調べる方法も併用すれば、より完全に近い診断もできそうだという。研究班は今後、大阪医療センターや福岡大病院など6施設で患者など計3000人のデータを解析し、診断基準となる4種類のたんぱく質の増減の標準値などを詰めていく。
 血液の分析は1日あれば可能。医療施設から分析拠点へ郵送するような方法を採れば、全国の健康診断に導入できそうだという。
66前立腺がん 待機療法 血液検査で進行見極め (2004年6月14日 読売新聞)
 
香川県の男性(75)は検診で前立腺がんが見つかった。香川大泌尿器科の説明では、がんが小さく、細胞の悪性度が低いので、治療はなにもせず、定期検査で経過を見る待機療法でも良いと言われた。予想外の対処法だったが、手術には後遺症もあるので、様子を見ることにして3年が過ぎた。 前立腺がんの検診では、採血によるPSA(前立腺特異抗原)検査が行われる。正常値は「4」以下だが、肥大や炎症でも上がる。外側から前立腺に刺した針で細胞を取り、顕微鏡で調べる生検を行う。

 この検査の普及で、早期の前立腺がんが見つかる人が増え、新たな問題が生まれた。

 前立腺がんは、進行が遅く、命を脅かす場合でも発見から平均10年かかる。また、ほかの原因で亡くなった人を解剖すると、70歳以上の20―30%に前立腺がんが見つかる。がんと言っても、おでき同様に、危険のないものが一定数あるのだ。

 ところが治療となると、手術では、男性機能の低下が半数に見られ、5―10%の人には尿漏れが残る。放射線治療でも排尿や排便の障害が起こる場合がある。注射や飲み薬によるホルモン療法はがんを殺すのではなく抑えるものだが、やはり男性機能は失われたり、顔がほてったりする。治療をしなくても安全ながんを見分けられればありがたい。

 香川大泌尿器科教授の筧(かけひ)善行さん(50)は「病巣が小さく、増殖速度が遅いものはある程度、見分けることができます。しかし100%完全ではないので、慎重な経過観察が必要になります」と説明する。

 待機療法(無治療経過観察)では、2、3か月に1度、PSAをはかり、それを基に半年ごとに、増殖のスピードを判断する。筧さんたちは、待機療法が可能な基準を設定している。

 〈1〉がんの進展度 PSAは10以下が望ましい。前立腺内にとどまるがんで、直腸から指を入れてもがんに触れない「T1c」という段階。患者の6割はこのタイプ。
 〈2〉大きさ 生検では通常、針を6―12か所に刺す。このうちがんが出たのが2本以下が対象になる。それを超えると、大きいと判断される。さらにがんが出た組織を顕微鏡で見て、がんが占める占拠率が50%以下なのも条件。
 〈3〉悪性度 がん細胞の悪性度を示す10段階の「グリーソンスコア」があり、顕微鏡による観察で診断する。数字が高いほど悪性度が高い。6以下が対象。前立腺がんと言われた時に、医師にこの3つの条件を質問すれば、待機療法が選択可能かどうかわかる。

 経過観察中に、増殖が早く、2年以内にPSAが元の数値の2倍になりそうなことが予想される時は、手術や放射線などの治療を勧める。研究を目的に登録した50人では、3年で35%が、経過観察を中止し治療を受けた。

 筧さんは「待機療法には、治療をしないですむか、先延ばしにできる利点があります。しかし、一部の患者さんでは、治療の開始が遅れる場合があることも留意して下さい」と話している。(渡辺 勝敏)  厚労省の待機療法共同研究参加病院(いずれも泌尿器科)

北海道大、札幌厚生、秋田大、千葉大、群馬県立がんセンター、国立がんセンター中央、北里大、県立静岡がんセンター、京都大、大阪府立成人病センター、倉敷中央、国立四国がんセンター、香川大
65「前立腺」治療の要・不要  読売オンライン 2006/09/13

 「前立腺がんを治療しない」のは、奇人変人でしょうか? もし、前立腺がんになったとき、手術も放射線治療もしないと、実際どうなるのか? 皆さん、知りたいですよね。 アメリカ・コネティカット州のがん登録所のデータが昨年、発表されました。1971年から1984年に登録され、手術も放射線治療も受けなかった767人の前立腺がん患者です。発病年齢は55歳から74歳。それから約20年後の結果です。まず、予想して下さい。何割の方がすでに亡くなり、そのうち、前立腺がんが死因であったのは何割くらいでしょう?

 なお、この登録の時代には、前立腺がんの指標となるPSA検査(血液検査)はありません。症状のある患者が主体のはずで、無症状の検診発見患者より、きびしい結果のはずです。また、がんの症状緩和のため、必要に応じて、ホルモン療法などが行われましたが、完治は望めません。

 熟年男性の長期追跡ですから、当然、多くの方が亡くなりました。767人のうち、9割以上の717人が、すでに死亡しています。問題はその死因です。「前立腺がんの進行で死亡した」と判断された方は、全体の約3割でした。6割以上の方は他の原因で亡くなったのです。 もちろん、このデータから、「前立腺がんに治療は無用」という結論にはなりません。ここからの見極めが大切です。解析すると、「発病年齢」と「がんの悪性度(病理検査)」が、前立腺がんで命を失うかどうかの重要な因子だとわかりました。

 悪性度の高い(たちの悪い)前立腺がんに50歳代でなった場合、治療しないと、15年以内にほぼ全員が前立腺がんで亡くなっていました。けれども、同じように悪性度の高い前立腺がんでも、70歳以上で発病した場合、前立腺がんで亡くなる危険性は約半分に減っていました。

 一方、悪性度が低い(おとなしい)前立腺がんの場合、20年以上様子をみても若年者・高齢者ともに、前立腺がんで命を失う危険性は2割未満でした。
 そして、がんの悪性度が中間の場合は、前立腺がんによる死亡の危険性も中くらいでした。つまり、「前立腺がん」という病名のなかに「治療すべき病気」と「治療しなくてもよい病気」が混じっているのです。もっと突き詰めると、実は「治療しても治らない病気」も含まれています。ですから、他人の経験を、そのまま自分に当てはめるのは無意味です。個別の検討が重要です。

 年齢、がんの悪性度や進行度、全身状態などを考慮し、結局は「ご自身の決断」になりますが、その際、錯覚や誤解は禁物です。本当に信頼できる主治医と、納得のいくまで相談することが、