21世紀における養生の新しい意義   エコ・ホリスティック医学の提唱
                            藤岡 義孝
                            赤目養生所所長、赤目養生診療所所長、

 健康を維持、増進し病気を予防するためには、栄養のバランスがとれた献立や適度の運動など養生が大切なことはよく知られています。しかし病気を治すうとする時にも養生が大切であることは、さほど知られているとはいえません。「病気を治そうとする時にも」というよりも「病気を治そうとする時こそ」養生が大切なのです。

1.人間は身体の中だけのものではない
科学的な医学は、20世紀を通じて輝かしい進歩をとげてきました。いまや細胞の中の小さな遺伝子までその詳細が解明されようとしています。すでに試験的な遺伝子治療も始まっています。しかしガンやアレルギー疾患だけでなく、生活習慣病や高齢化に伴うさまざまな疾患といった難間を前にして、医学は行き詰まりを見せています。その弊害も現れています。

このギャップは、周辺科学の進歩に制約されたやむをえないものですが、科学的な医学が人間の半分しか研究してこなかったことにあります。
人間は皮膚に包まれた身体をもっています。消化管や気道などの空間は外部と見なけれぱなりませんから、より正確には皮膚と粘膜によって包まれた身体ということになります。

人間は、あらゆる他の生き物も同じことですが、皮膚に包まれた身体だけで生きているのではありません。人間はこの身体を外部である環境と反応させることによって生きています。人間は外部である環境と無関係に存在することはできませんし、外部である環境と無関係な人間など存在しないのです。

人間の身体は皮膚を境にして環境に広がりをもっていると考えることもできます。そしてその広がりをふくめたものが人間であり、常に環境と反応し学習し成長しています。

科学的な医学の成果がいかに偉大なものであったとしても、その成果は、皮膚に包まれた身体にっいてのものであり、環境との関わりを無視したものでした。
それは丸ごとの生きている人間にしてみれぱ、その半分についての成果でしかありません。人間の皮膚の外にある残りの半分についての研究は、比べようがないほど後れていると言えましょう。

  2.養生とは環境との関わり方のことである
 生き物である人間は、他の動物たちと同じように、食物を食べることによって自分のからだを成長させ維持しています。運動することによってからだの機能と運動する能力を高め維持しています。病気になったりけがをしても、免疫機能や修複機能がはたらいて自分で治す能力をもっています。
このように生き物には生命を成長させ継続していくための能力がそなわっています。この能力は生命力とよばれたり自然治癒力や抵抗力とよばれています。この能力はからだが必要とするものを適量食べ、適度に運動することによって高められ維持される能力です。食べなければこの能力は衰弱し生命は終わってしまいます。運動しなければからだの機能も運動能カも衰弱していきます。

食べるということは、植物や動物である食物を口から取り人れることですが、その食物は田畑や牧場や海や川など環境の産物です。食物を食ぺるということは環境と関わることですが、何を選んでどれだけ食べるかということは、環境とどう関わるかという間題なのです。
運動するということは、人間の認識活動(立ったり、歩いたり、走ったりすることも認識活動)ですが、それは人間の活動を支える環境と関わることであり、環境との関係を学習することです。伝統的な認識の理論は、認識の主体である人閲の能力のみを間題にしてきましたが・人間の知性というものの本質をその生息環境への適応の巧   さであるとすれぱ、その知性は人間に一方的にそなわった認識能力ではなく、環境との関わりの中で
学習を通じて高められていくものです。
また、人間は教育や学習や社会的な活動を通じて、環境から情報を得たり発信したりしています。情報とは、人間が杜会の中で生きていくために必要な知識や知恵や技術のことです。それは人間の能力を拡大し人格を形成していきます。そして人生観や価値観、世界観を形成しています。人間は環境と一体となって個性を豊かにし、環境の中で生き生きと生きる存在になることができます。人間や動物の知性やさまざまな能力が、一方的に人間や動物にそなわっている能力でないように、私たちの健康を維持する能力や自然治癒力も一力的に私たちにそなわって
いる能力ではなく、環境との関わりの中で生まれ強化されていく能力なのです。いいかえれば「生きること」そのものが、環境と関わることなのです。

3.複雑系としての人間と養生
サンタフェ研究所の教授であったマレイ・ゲルマンは「アインシュタインの一般相対性理論よりも一尾の鯉の方が複雑なのである」そして「最も理解しにくい複雑な系が、人間であり、人間は事故組織化する複雑適応系であると述べています。
エドガー・モランは人間を「自己・環境(生態)・組織化的システム」と見なすことを鍵案していますが、私は複雑系である人間を「自己・環境・養生のシステム」と考えたいと思っています。いいかえれぱ自己が関わる環境中で、その環境とうまく関わりながら自己を形成し成長していく方法が養生なのです。
身体という人間の半分を研究してきた科学的な医学に,この養生を加えた丸ごとの人間の医学をrエコ・ホリステ・イック医学」とよぶことを私は提案していますが、21世'紀を目前にして、やっと丸ごとの人間の医学が見えてきたのではないでしょうか。

参考書
ミッチェル・ワールドロップ「複雑系」1996年、新潮社
エドガール・モラン「複雑性とはなにか」1993年、国文社

著書「人が自然に癒される時』1994年柏樹社
連絡先:518-0465三璽県名張市赤目町丈六23-1
0595(62)1092:
FAX0595(62)1143



l