ホルス
第11回 
第12回
第13回
第14回
第15回
第16回
第17回
第18回
第19回
西洋、東洋の特徴生かし
検査数値に出ない「未病」
すべての診療の根幹
免疫力ぐんぐんアップ
西洋医学の特質を知る  
気楽に出来て健康に
賢い患者学(2)
免疫とは?
免疫活性化のカギは?

   第11回 西洋、東洋の特徴生かし
 世の中には西洋的な健康法以外にも、東洋的な養生法をはじめ、さまざまな伝統的な「体」の養生法があります。これらの中で西洋の代表的な"動的"な養生法は各種スポーツや山登り、ハイキングなどです。また、毎日一人でできる養生という観点ではウオーキングやサイクリング、ストレッチング、リズム体操などがあります。

 静的"なものとしては西洋マッサージ、アロマセラピー(芳香療法)、リフレクソロジi(足裏療法)などがあります。"動的"な養生、つまり白分で身体を適度に動かすことの重要性は、あらためて言う必要がないほど周知のことです。西洋的な「運動」の特傲は心肺機能の強化です。特に心臓・動脈系を強化し、肺活量を増加させ、筋力を鍛える方法が多いため、身体の筋力、敏しょう性、全身の持久刀の向上が計られます。「パワー」と「スピート」の向上と言い換えてもいいでしよう。
 
 現代人の頭の中には、「運動して汗をかくことは健康にいい」とか、「スポーツは心身に健康をもたらすLといったように西洋的な「運動」や「スポーツ」に対する健康神話が根強くあります。ところが、健康のための運動やスポーツのはずが、つい「パワー」と「スピード」を求めすぎて無理をしたり、やりすぎて思いがけない関節や筋肉のケガや心肺系の病気の元になることも珍しくはありません。.スポーツ選手の多くが身体を傷めており、意外に短命の人も多いことがそれを裏づけています。
運動
一方、東洋的な"動的"な養生法の代表は太極拳、気功、ヨガなどです。日本にも西式健康法、操体法、真向法などがあります。"静的"なものとしてはビワの葉温熱療法、ツボ療法、指圧・按摩など紹介し始めたらキリがないほどたくさんあります。

これら東洋的な「運動」の特徴は心肺機能でいえば、いかに血液をスムーズに毛細血管・静脈系から心臓に戻すか、いかに多く酸素を吸うかよりもいかに多くの二酸化炭素を吐き出すかという"還流と排せつ"を重視します。そこで身体の強さよりも柔軟性と平衡性つまり「バランス」を大切にしている点が特徴です。

 近年の科学的な研究は気功やヨガの手足の微小値環の改善効果、太極拳の動きや形の力学的な合埋性を実証し始めています。特に太極拳による病気療養やリハビリ応用は興味深い研究テーマとして注目されています。

 このように、西洋的な「運動」のみならず東洋的な「運動」の持つ特性にも目を向ける必要があります。それぞれの「運動」の目指すところを一言で言えば、"よりたくましく〃と"よりしなやかに"になるでしょう。これらは、いずれも私たちの「体」の養生にはかかせない要素ですが、中高年の方々や患者さんにとっては〃よりしなやかに"を目指す養生の方が合っていると思います。二十一世紀は西洋と東洋、それぞれの特徴を生かした「体の養生」が求められる時代になるのではないでしょうか?

  第12回検査数値に出ない「未病」

日常生活の中では、「病」も「疾患」も同じような意味で使われていますが、医療人類学という学問では、はっきり区別されています。「病」は英語で「イルネス」といい、文化的な概愈であり、きわめて個人的・主観的なものを指し、自分で異常を感じる状態のことです。一方、「疾患」あるいは「疾病」は「ディジーズ」といい、これは病理学的な慨念であり、客観的に、例えば医師によって診断、命名されるもののことです。

そこで、どこか調子が悪いと白分で異常(病)を感じても、病院で検査してもらったら、「数値的には正常範囲ですから、どこも悪くないですよ」と疾患はないと判断されホッとする半面、何かスッキリしない感じを持った場合が「病」にあたると思います。ちなみに、ディジーズとはディスイーズの意昧で、イーズ(気持ちよさ、やすらぎ)のない状態のことをいいます。

実際に、私が体験したことをお話しましよう。十五年前から私は「がん治療のホリスティックなアプローチ」という、試行錯誤に近い診療を始めました。次々と来院される患者さんは、主治医から治療法がないとサジを投げられた"がん難民"と表現するしかない方たちでした。行き場を失った患者さんたちと深くかかわり、その苦痛と替脳に満ちた言葉を聞き、一人ひとり異なる療養の道を一緒に探る日・々を送っていました。

五年ほどたったころ、私は数カ月にわたり体調が悪く、どこかははっきりしないが「病んでいる」という感じが続きました。血液生化学や画像診断など一通りの西洋医学の検査はしたのですが、特に異常はみつかりれる患者さんは、主治医から治療法がないとサジを投げられた"がん難民"と表現するしかない方たちでした。行き場を失った患者さんたちと深くかかわり、その苦痛と替脳に満ちた言葉を聞き、一人ひとり異なる療養の道を一緒に探る日・々を送っていました。
病と疾患

五年ほどたったころ、私は数カ月にわたり体調が悪く、どこかははっきりしないが「病んでいる」という感じが続きました。血液生化学や画像診断など一通りの西洋医学の検査はしたのですが、特に異常はみつかりません。それでも、「調子が悪い、何か違う、どこかおかしい」という感じがずっととれなかったのです。

そんな折、ホリスティック医学の関係で知り合った東洋医学や補完・代替医療の先生たちに診てもらったところ、西洋医学的には異常がなかった「膵臓(すいぞう)と肝臓が弱っている」という見立てでした。日々の忙しさに追われ慢性の睡眠と運動不足、ストレスはたまる一方。〃医者の不養生"そのものでした。毎晩酒を過飲することで心身の疲労を忘れ、ストレスを発散させていたのかもしれません。

その時、・たとえ西洋医学の検査の結果が正常範囲でも過労とアルコールによる軽度の肝臓と膵臓の潜在的な機能障害、いわゆる"未病"の状態にあるなと直感的にわかったのです。そこで、太極拳など各種の養生法を組み合わせた私独自の養生法を創案して実践したところ、不快感は徐々に消えていきました。

自分の中にある「どこかおかしい」という主観的な病んだ感覚には西洋医学の「異常なし」という客観的な診断結果ではなく、東洋医学や補完・代替医療家の見立ての方がびったり合ったわけです。この「病んでいること」と「疾患があること」は別物であると気づけたことは「病」と「疾患・疾病」の違いを理屈ではなく体感できたという意味で私にとって大変貴重な経験になったのでした。

  第13回 すべての診療の根幹
 現代社会は、別名"ストレス社会〃と呼ばれるほど、ストレスが充満しています。この非常に生きづらい社会を、イキイキ元気に生きるためには「心の養生」が欠かせません。
「心の養生」は、すべての養生や診療の"根っこ〃にあたる最も重要なものです。ことに、がんの患者さんには身体的な苦痛だけでなく精神的な苦脳が伴います。20〜40%の方がうつ状態にあるといわれ、精神的ストレスにどう対処するかは大問題です。

そこで、がんなどの難病の患者さんに対しては身体の治療と並行して心のケアが十分になされなければなりません。と同時に、患者さん自身も医療者まかせにせず、自分でできる範囲の「心の養生」を実践すべきでしょう。
さて、近年の「精神・神経・免疫・内分泌学」という学問の発達は、私たちの精神(心)と身体の神経系、免疫系、内分泌系などが緊密なネットワークを形成していることを明らかにしました。かつては別々に働いていると考えられていたこれらがそれぞれ密接な関係にあり、互いに強く影響しあっているのです。心の養生

私たちの身体は内外からのさまざまなストレスを受けると、これらの機能をフルに働かせて生体のホメオスターシス(恒常性)を保とうとします。その際、精神、つまり心の状態が身体に大きな影響を与えるということです。心の状態が良くなると痛みなど神経の症状、ホルモンのバランス、免疫の働きのすべてが良い方向に向かい、逆に心が暗くネガティブになると、いずれも悪い方向に向かうわけです。
反対に、これらの身体の機能が心の状態にも強い影響を及ぼします。

このように、精神・神経・免疫学・内分泌学によって、東洋では"病は気から"とか"身心一如"といい、西洋では〃心身相関"と表現される、心と身体の緊密なネットワiクの存在が学間的に裏づけられつつあります。また、がんという身体の病気にも心の状態の影響が大きいことから「精神腫瘍(しゅよう)学」という新しい学間が誕生しました。

私も早くから、がん患者さんの心のケアの重要性に着目し、さまざまな「心の養生」を診療に取り入れてきました。たとえば、呼吸法(腹式呼吸・養生呼吸)を使った瞑想、カウンセリング、グループサポートの会、陶芸によるアートセラピーや."笑いセラピー"という変わったセラピーもあります。また、芳村思風先生の〃感性論哲学"の講義も優れた「心の養生」の一つと考えています。

このほか、潜在意識へのアプローチも含めた「心の養生」としては自律訓練法、祈り、サイコセラピー、カラーセラピー、ミュージツクセラピーなど西洋的なものや座禅、内観、読経、写経、書道、華道、茶道、香道など東洋的なものまで多数あります。「心の養生」は、新しい学問がその重要性を実証したように、がんのみならず、あらゆる病気の『療養』の土台として非常に大切なものなのです。
次回は"笑いセラピー"についてお話します。
 
 第14回 免疫力ぐんぐんアップ
 私は免疫機能の指標として、免疫リンパ球の代表であるナチュラル・キラー細胞(NK細胞)の活性を重要視しています。NK細胞は別各「動く脳」と呼ばれ、その活性(NK活性)と心の状態との相関関係が明らかになりつつあります。
 私のクリニックでは、"笑いセラピー〃と名づけた、芸人さんの漫談や落語などを聴く会を定期的に開いています。

 このセラピーは、笑いやユーモアが患者さんの免疫力を高めるという「精神・神経・免疫学」の研究結果を基にした免疫強化療法の一つです。笑いの効用についての私の漫談風(?)の解説のあと、笑いのプロの芸を楽しみ、大いに笑っていただき、患者さんたちが白分のNK活性の変化から笑いやユーモアの効果を実感してもらうものです。

 五年前にはお笑い演芸の殿堂である大須演芸場を借り切って、笑いセラピー前後の患者さんやボランティアの方のNK活性の変化を測定する実験を行いました。その結果、実験参加者十一人中八人(73%)のNK活性が、笑う前より後で上昇したのです。中には数値が32%から58%ど借近くにはね上がった万もおられました。

 NK沽性の数値は30ー40%(がん細胞の三、四割を殺せるカ)の人が多いのですが、事前には五人しか上回っていなかったものが、三時問後には七人に増加していました。たかだか三時間おなかを抱えて大笑いしただけで、七割以上の人の免疫細胞の働きが高まったという事実は注目に値するのではないでしょうか。笑いセラピー

 「笑い」の免疫力への影響については数多くの医学的な研究が行われ、笑いやポジティブな気持ちが免疫力を増強することがわかってきました。この他にも笑うことにより脳機能が活性化されて"ぼけ防止"になったり、関節リウマチの痛みを鎮める効果もあります。大笑いする時には腹筋を使うため内臓の"ジョギング効果"にもなります。そして何といっても、笑いの第一の効用は心身のリラックス作用でしよう。

 一方、悲しみやむなしさなどネガティブな感情の持続がNK細胞活性を低下させるというデー夕もあり、いかに人の免疫カがストレスの影響を受けやすいものかがわかります。
 笑いと医療といえば、世界中を笑いと感動の渦に巻き込み、現代の医療の問題点を浮き上がらせた映画「パッチ・アダムス」を思い出された方もおられるでしょう。この映画は笑いが人の心や病気をいやすことに気づいた医師の波乱万丈の半生記を描いたものです。

  主人公である実在のアメリカ人医師、ハンター・アダムス先生は医療の基本が「愛とユーモア」であり「笑いと笑顔」が最高にして最大の診療行為であることを実証してみせたのです。いま、日本の医療の現場には笑いと笑顔が不足しています。ストレスがいっぱいの現代社会をイキイキ元気に朗らかに生きるためには、お金も手間もかからない笑いや笑顔が必要不可欠ではないでしょうか?「笑い」こそ「心の養生」の基本だと思うのです。

 第15回西洋医学の特質を知る
 最近『患者学」という言葉を耳にします。この言葉には、医療者任せで受け身の患者に、精神的自立と賢い行動を求めるとともに、医療者主体の現代医療に対する批判の饗きも感じます。では、そもそも「患者」とはどんな存在なのでしょうか?

 医療杜会学では「病人」と「患者」を明確に区別しています。どこか病んでいると"自分で感じている状態"を「病(やまい)」、病を持った人を「病人」と呼びます。「病人」が医療機関へ行って「医師」によって病名を診断.・命名され初めて「疾患」を持った人である「患者」になります。

 病人が医療機関を訪れ、医師に診療を依頼すること、つまり契約を結んだ時から「病人」は「患者」となるのです。言い換えれば、患者とは病人が医療のシステムの中で果たすべき〃役割"です。現代西津医学とは、医師は医師の、看護師は看護師の、患者は患者の役割を相互に忠実に果たすことによってのみ成立する"しくみ"といえましよう。

 病院で「いい患者さん」と呼ばれるのは患者らしい人のことです。一方、患者らしくない、例えば元気いっぱいの人は「悪い患者さん」になる。この場合の「いい・悪い」の判断基準は患者という役割を忠実に果たしている人とそうでない人の違いに過ぎません。

 余談ですが、患者を指す英語「ペイシェント」は、ほかに"忍耐強い"という意味があります。患者さんの置かれた状況を暗示してはいませんか。ところで、ケガをして入院している患者は、普通は自分が「病んでいる」一とも「疾患がある」とも思っていません。単に「ケガをした」と思っているだけです。しかし、病院では、ケガでもガンでも、毎日医師や看護師が回診や検温・採血に来ます。賢い患者学

たとえば朝、体温が37,2度あったら、看護師は医師にそう報告し、回診に来た医師は患者にこう尋ねるでしょう。「○○さん、微熱がありますが、具合の悪いことはないですか?」
「別に調子は悪くはないですが、言われれば熱っぼい感じはします」
「では念のために血液検査しましょうか」
わずかな異常所見から疾患を迅速に診断し適切な治療を行うことは西洋医学としては当たり前であり、患者は原因解明のため一連の検査を受けることになります。医療者の職業意識から始まる診療システムのベルトコンベヤーに、患者は知らず知らずのうちに乗っていくわけです。

そして、結果はどうであれ、入院当初は「白分はケガで動けないけど、心身は元気なんだ」と思っていた患者も一カ月もしないうちに、どこかに「疾患」を抱えた「患者らしい患者さん」になっているかもしれません。これが西洋医学の診療の構造であり、『病院』に"イキイキ、元気な患者"が存在しにくい理由ではないでしょうか?

 『病院』とは、基本的に医師や看護師など医療者が患者に医療行為を一方向的に施すところです。「患者」という存在は医療者から診療を受ける以上、変な話、"依存的で病んだ感じ"でないと役割を果たしづらいのかもしれません。賢い患者になるためにも、この西洋医学の構造的な特質を知った上で診療を受ける時代になったのではないでしょうか。
 
 第16回気楽に出来て健康に

 今回は、私が体の養生の基本動作として患者さんに指導している「スワイショウ」について解説します。これは、以前、私か「『病』と『疾患』」でお伝えしたように、私自身が"未病"の状態から脱するために行った体の養生の一つです。。

スワイショウは太極拳や気功の準備運動ですが、いつでも、どこでも誰でもできる非常に簡単な体操のような動きです。スワイショウを紹介する前に,まず太極拳についてお話ししましよう。

「太極拳とは?」ときかれた時、皆さんはどのようなイメージを持たれるでしようか?
ゆっくりした踊りのような動きをイメージしたり、格闘技のように激しく動く武術を思い浮かべたりと、人さまざまでしょう。しかし、中国に伝わる「健康体操のようなもの」という共通したイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。

実は、私も古臭い中国式の体操程度のイメージしか持っていませんでした。ところが、縁あって現在の師である橋逸郎先生に出会い、先生の太極拳教室に入ってみると、その認識がとんでもない問違いであることに気づいたのです。

橋先生は、実技指導とともに、その理論的解明に取り組む"知行合一"の研究者です。太極拳の動きのメカニズムは、実に合理的で理論的に裏づけられた、ホリスティック(包括的・全人的)なものだと学びました。この科学的な根拠を基に太極拳を見直せば、単に健康を増進し病気を予防する東洋の伝統的な養生法にとどまらず、病気の治療法や介護の手法として臨床応用できるのではないかと私は考えました。

早速、患者さんや家族の皆さんに、養生の基本である腹式呼吸とともにスワイショウをしてもらったところ、肩こり・頭痛・腰痛・生理痛・便秘・冷え性の改善をはじめ、高血圧や糖尿病などさまざまな病気の養生法としても予想以上の効果がありました。ではスワイショウとは何なのでしょうか?
スワイショウ
中国語では「用」に似た字と「手」と書きます。腕や手をポーンと放り投げるという意昧です。
イラストのように、手を振ったり、回転させるだけの実に簡単な運動ですから、手を振るスペースさえあれば、患者さんや体力のない方でも気軽にできます。

やり方は、両足を肩幅に開き、つま先がまっすぐ前に向くように立ちます。ひざは軽く曲げます。「前後」のスワイショウは肩とひじの力を抜き、両手を一緒にぶらんぶらんと振ります。一回五分程度から始めて、一日に二、三回行います。「回転」のスワイショウは胴体をウエストの位置で左右にひねり、胴体のひねりに合わせて、両手をでんでん太鼓のように左右に振ります。一回に往復十回ぐらいから始め、三十〜四十回を目安にします。一日に何度行っても構いません。

効果は、自律神経系の副交感神経が活性佗されるため、全身の血流が促進され内臓の働きが活発となり、知らぬ問に足腰が強くなって心身ともにリラックスします。回転することによりウエストが引き締まります。いま私は、スワイショウを体の養生の基本中の基本としてその普及にカを入れています。
第17回「賢い患者学(2)」

 十月に「賢い患者になるには、まず西洋医学の“診療のしくみ”をよく知るべし」といった趣旨を述べましたところ、読者や患者さんから「医療のしくみがわかったとしても、あくまで受身である患者として、どう行動したらいいのか?」といったご質問がありました。 

そこで、お答えになるかどうかわかりませんが、今回は私が「賢い患者学」の実践に参考になると思う事例を紹介します。世の中には自覚症状がなくても健康診断や人間ドックで疾患が見つかって「患者」になる人たちがいます。ところが一方には、疾患があるにもかかわらず医療機関に行かず「病人」のままで「患者」にならない方たちも少数ですがおられます。

沖縄には非常に長生きのお年寄りが多いことは周知の事実ですが、そこの元気な老人に「長生きの秘訣は?」と尋ねると、「病院に行かないことだ」と答えたそうです。これは病院に行って疾患を発見されたら、患者という“役割”を果たさなければならない現代の医療のしくみを皮肉っているかのような話です。私はまるで西洋医学の常識である「早期発見・早期治療」という考え方を否定するかのような沖縄の長寿者の言葉の中に、賢い患者としての智慧ある行動のヒントがあるかもしれないと思いました。

また以前、百歳の元気いっぱいの双子姉妹として有名になったきんさん、ぎんさんのうち、きんさんが魚の骨をのどにつかえさせて入院したことがありました。その際、きんさんはひっかかっていた魚の骨だけ取り除いてもらって、さっさと退院されたと聞き、私は「さすが、智慧者きんさんだ!」と思ったのでした。

「入院されたついでに、健康診断でもされたらいかがですか?」という善意と好奇心に満ちた誘いに乗って、もし全身をくまなく検査したら、いかに元気いっぱいのきんさんとはいえ百歳を越えた超高齢者ですから体中に数え切れない異常、例えばがんの一つ、二つは発見されたかもしれません。

それを、自分が異常を感じたところだけ治してもらい、さまざまな「疾患」を持った「患者」になる前に速やかに退院したというのですから、これこそ沖縄の長生きのお年寄りと同様、智慧ある賢い人の生き方、身の処し方だなと思ったのです。

西洋医学ではがんのような重大な疾患の疑いが持たれた場合、直ちに精密検査を行ない診断を確定し、治療法を決定しなければなりません。ただ、診療システムとしてはやむを得ないとはいえ、高齢者にとってこれらの精査が結構心身の負担になっているのも事実です。沖縄の長寿老人やきんさんが医療のしくみを知った上で行動しているとは到底思えません。おそらく、経験と勘に基づいた“生きる智慧”によるものでしょう。

しかし、日本の大多数の国民が、沖縄の長寿者やきんさんたちのように、一生の大半を医療機関にかかることなく“病い知らず”に過ごせるとはとても思えません。 残念ながら高齢化社会の現実の姿は“無病息災”とはいかず、“多病息災”あるいは“病と共に生きる”といった風に表現した方がしっくりきます。

 とすれば、西洋医学の診療を受ける患者としては“医療のしくみ”を知り、疾患に関する情報を集めると共に、「医療といかに賢くつきあうか?」について一人ひとりが智慧を働かせることが必要ではないでしょうか?今後もこの連載の中でそのヒントを提示していくつもりです。

第18回 免疫とは?

 今回は「免疫」という何となくわかったようでいて、いざ説明するとなると案外難しい医学用語を解説しましょう。

 私たちの体は常時,一億種ともいわれる細菌やウイルスにさらされています。がんの基になる異型細胞も毎日発生しています。それでも私たちは簡単には病気にならずに健康状態を保っています。また,たとえ病気やケガになったとしても,体は自らそれらを治したり,修復しようとします。

この目に見えない大きな力は私達が生きていく上で欠くことのできない根源的な力であり,かつては「治癒力」と呼ばれていました。「病気になる」とは,この治癒力が働いている状態であり,「死」とは治癒力が働かなくなったことと言い換えられます。この治癒力の中で私たちの心身を常に守ってくれている生体防御の力のことを西洋医学では「免疫力」と呼びます。

無数の微生物やがんなどとそれに対抗する免疫力との微妙なバランスの上に,私たちの生命は維持されているのです。従って, 何らかの原因でひとたび免疫力が低下すると病気になり,がんの発症も例外ではありません。ところが,近年の免疫学の目覚しい進歩は免疫という現象が時に生体に不利に働く場合があることを明らかにしました。

免疫学の第一人者、多田富雄東大名誉教授によれば、「免疫とは『自己』と『自己でないもの=非自己』を識別し,『非自己』を排除して『自己の全体性』を守るシステム」のことをいいます。少し難解な表現ですので,私流に言い換えると「免疫とは元々自分の体内にあったものと,なかったものを判別し,なかったものを排除して自分という『いのち』を守る働き」のことです。

免疫は従来考えられていたように、単に細菌やウイルスなどの微生物から体を守る生体防御のための働きだけではないのです。では,どこがどのように違うのでしょうか?確かに身体の『自己』が監視・維持されることにより免疫というシステムが強力な生体防御の役割を担っていることに間違いはありません。

ただし,免疫反応は常に生体を守り,有益に働くとは限らないのです。近年増加の一途をたどる花粉症などのアレルギー疾患や自己免疫疾患,がんは,この免疫というシステムの「負」の一面を示す代表的疾患といえましょう。これらは無数の複合的要因,たとえば地球環境の悪化や現代社会の構造的なストレスなどにより免疫の識別システムに狂いが生じたものです。

本来『自己』であったはずのものが『非自己』と認識され免疫システムの攻撃の対象となる一方で,すでに『非自己』であるはずのものが『自己』と識別され排除されずに増殖した疾患群と言い換えられるかもしれません。尚、『自己』であるかどうかの識別の基準は遺伝子情報ですが、遺伝子に刻まれた“記憶”は自分一人の経験に止まらず、両親につながる祖先の膨大な経験の蓄積なのです。
 
このように,私たちは免疫という生命現象のしくみを知れば知るほど生命科学の域を越えて『自己とは?』あるいは『自己の全体性とは?』という究極の問いに触れざるを得なくなるのです。
 
 
 19回 免疫活性化のカギは?

 毎日,私のクリニックには免疫力など治癒力の活性化を目的として多数のがん患者さんが来院されています。
私はこれらの患者さんに標準的な西洋医学の診療以外に「ホリスティック医学」という人間の体だけでなく心,魂さらには環境などを全体的に“まるごと”に見つめる考え方による「療養」つまり「治療」の実践と「養生」の指導をしています。

当クリニックの治療を受けながら,一所懸命に養生に励まれている数多くの患者さんを長年診てきた経験から確信を持って言えることがあります。ひとつは,西洋医学的に末期がんと言われた患者さんに起こる“奇跡”としか言いようがない治癒例や長期にわたるがんとの共存例が決して珍しくはないということです。

患者さんの内なる治癒力が最大限に発揮されれば,がんをいわゆる“休眠状態”にしてがんと共存する可能性はどんな患者さんにもあると思います。二つ目は,西洋医学の標準的治療法を受ける場合に,たとえ強い副作用がある抗がん剤治療であっても補完療法として正しい養生を基本に免疫強化療法と効果・効能が確認された機能性食品をうまく組み合わせれば,抗がん剤の単独治療とは全く異なった成果が得られるという事実です。

免疫力を下げることなく抗がん剤の副作用を抑えつつ,その働きを最大限に引き出すことができるのです。三つ目は,主治医から「末期がん」あるいは「治療不能状態」と言われたとしても諦めることは全くないということです。 まず,患者さん自身が望みを捨てずに「絶対に治すぞ!!」という強い意志を持つことが非常に重要です。なぜなら,私たちの内にある治癒力の中で最大にして最高の力は「気力・精神力」だからです。 

患者さんにとって何よりも大切なのは自らの治癒力を信じきる心です。高血圧の“黒幕”と考えられる酵素「レニン」の遺伝子解読に成功した世界的な科学者,村上和雄筑波大名誉教授は遺伝子の働きは決して固定されたものではなく,人間の意識と『場』(環境)次第であり,一人ひとりの想いや行動と『場』の力が遺伝子のスイッチのON,OFに多大な影響を及ぼしていると述べています。

要するに,がん遺伝子やがん抑制遺伝子が働くか否かには意志の力が大きな要素になっているということです。患者さんの「治るぞ!絶対治すぞ!!」という強い想いと信念、前向きな行動,さらにその『場』の力ががんの遺伝子の働きを変える可能性があることを科学が実証し始めているのです。

最後は,患者さんを支え続けるサポーターや応援団の重要性です。患者さんを中心に家族,医師を始めとする医療者,補完・代替療法家そして友人の方々などで形成するネットワークの大切さです。 この応援団のサポートを受けながら,患者自身が強い意志と信念を持って日々の養生と免疫強化のための治療を続けるならば,たとえ「余命六ヵ月の末期ガン!」と宣告されようと治癒や長期生存の可能性は大いにあるのです。


ホルス