『決して、民愚になるなかれ!!』 Holos
 
         ― 国民総生活習慣病化時代をいかに賢く生きるか? ―


 本年4月から、中高年の国民に対して、生活習慣病の早期発見、早期予防を目的とした新しい特定健診・保健指導制度がスタートします。 従来の健診・保健指導があくまで国民一人ひとりの自由意志を尊び、国が推奨するものであったのに対して、この新しい健診・保健指導は、中高年の被保険者を抱える医療保険者に対する『義務』、つまり強制的に行われる点が、非常に異なっています。 

 ある意味では、いわゆる“戦後民主主義”と呼ばれた「個人の権利を尊重する時代」が終焉を告げ、国民の健康を守り、病気の発見、治療、予防の主体は個人ではなく、医療保険者の義務であるとする「国家主導の健康第一の時代」が幕を開けたといっても過言ではありません。

 この個人の健康に国家が介入するという、戦後日本の保健・医療制度の歴史的なターニングポイントともいえる重大な医療制度改革を決定するに際して、かつてならば政党、労働組合、医療者、識者、マスメディアなどが一斉に賛否について喧々囂々(けんけんごうごう)、談論風発するはずが、何の議論もなく、すんなりと政策決定されてしまいました。

 その背後には、現行の医療制度が“病人”を対象としたものであるかぎり、健康増進、病気予防を国民一人ひとりの主体性に任せていると、生活習慣病患者がドンドン増えて医療費が急増し国家の経済的破綻をきたしかねないと危機感を募らせている厚労省の医療費削減政策があります。

そこで、今後はお金のかかる“病人”の治療でなく“半病人”と“半健康人”に照準を合わせて特定健診・保健指導を行い、病気予防、健康増進へ力を注いで“病人”の発生を防ぎたいという思惑が見え隠れします。

この「健康は善いこと、病気は悪いこと」という“健康至上主義”と 一種の“富国強兵”政策を背景とした「国家が国民の健康を増進し、病気を予防する」という大義名分の前には、なんびとも異議を申し立てたり、表立って批判を唱えられないのかもしれません。

加えて、この特定健診・保健指導の意味するところが、「腹囲を減らしてメタボを撃退!」とか「生活習慣病予備軍をなくそう!!」といったもっともらしくてわかり易いスローガンの下にうまく隠蔽されたためか、医療者も国民もマスメディアまでもが、まったく気づかず、ことの本質をよく理解していないことの方が重大な問題だと思います。

 厚労省が医療保険者に義務として設定したメタボリック症候群の減少率(数値目標:平成24年10%、27年25%)をクリアできなかった場合の罰則として、各保険者毎に保険料率を増減するという重大かつ深刻なペナルティーが科されるということも、まったく報道されていません。
また、メタボリック症候群という名の生活習慣病予備軍を対象にした国家主導の生活習慣病の予防と対策は、ひとつ間違うと“半病人”と“半健康人”を“病人”にしないどころか、「国民総生活習慣病化」という病人の大量生産に向かってしまう危険性をはらんでいます。

私は、この一連の流れを見て、ホリスティック医学という「私たち一人ひとりの『主体的な生き方』を考える医学」を志向する医師として、さらには、ホリスティックに観た「健康とは、身体、心、精神(スピリット)、周りの環境などが、それぞれ切り離されることなく、たとえ部分的に問題があっても全体として、ほど良い調和的なバランスを保っている状態」と考える者として、国家と個人の関係性、個人の主体性や尊厳に関わるきわめて根元的な問題として捉えています。

そこで本年は、いま一度原点に還って、「健康とは何か?」「病気とは何か?」「医療とは何か?」「個人の主体性や尊厳」などにつき、ご参加いただいた皆さんと一緒に考えてみたいと思います.
Holos